2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧
「 あなたは母を家から追い出した。精神を病んでしまったあなたを必死に救おうとしたのに。その時、母のお腹の中には私がいました 」と白木は言った。 「 その事は、本当にすまないと思っている。ただ、君がお腹にいた事は、私は知らされていないんだ 」と那…
「 その話が本当なら、あなたと僕は兄弟ですね 」と信晴は言う。 「 私はごめんだわ。姉を縄で縛りつける弟なんて 」と白木は言う。 「 何も殺そうなんて思っていませんよ。今、急いで調べてもらっています。それが解ったらあなた達は自由です 」と信晴は言…
「 そうね。そうかも知れない 」と白木は笑う。 もう必要以上に怯えるのは止めにしようと、白木は想う。 どんな真実が、この先に待っていようと焦る事はない。 私は母親の味方であり、母親は私の味方なのだ。 それは、どんな力を持っていたとしても、引っく…
白木は静かに頷き「 あなたと話していると、私が今まで否定してきた過去が、肯定されていく感じだわ 」と言う。 「 ボクは単純に必要以上に怯えたくない。起こりもしない事に悩んだりしたくないんです。そう言うのを能天気と言うかも知れないけど 」 「 それ…
「 ボクの父親は、自分が子どもだった頃、ボクと同じ様に、サンタさんに心待ちにして、プレゼントに喜んでいたと思います。その風景をボクと重ねていたと想う 」と真下は言う。 「 あなたの母親も、昔は子どもだった。あなたの母親が子どもだった頃、楽しか…
「 朝、目覚めるとベッドの上にプレゼントが置いてあります。朝の日差しで宙に舞っている埃がキラキラ光って、宝石の様に観えます。サンタさんは、必ず、ボクが望んだオモチャを持ってきてくれるんです。ボクは、父親に、サンタさんがやってきた!と言います…
白木は顔をあげ真下の顔をみる。 真下は何が言いたいんだろう? コーヒーは少し前に注がれたばかりのに、もう冷たくなっている。 「 あのレコードを聴いていると、クリスマスの夜の思い出が蘇ってくるんです。ボクが寝る前に『 サンタさんに手紙は書いた?』…
「 母親?あなたの母親は、あなたの味方じゃないんですか? 」 「 私達を追っていた人間は《 お前達を許さない 》と言ったわ。その言葉を聞いて、私の存在自体が、彼が母親の心を殺す原因になったんじゃないか、と感じたの 」と白木は言う。 「 私は、誰にも…
「 誰かが私達を追いかけてくるの。《 私達を追っているのは、君の良く知っている人間だ。いいかい?何があっても、後ろを振り返ってはいけない。振り返ってしまったら、君はここから出られなくる 》と彼は言い、ヴィレッジヴァンガードに向かう 」と白木は…
「 何も心配しなくても、大丈夫です。明日、予定通り、那須信也に会いに行きましょう 」と真下は言う。 白木は、コーヒーカップの中を覗きこんだまま黙る。 その中に、あるべき答えを探してる様に観える。 「 昨日の夜、図書館で夢を見たの。私は、那須信也…
真下と白木は『 ホテルニューオータニ博多 』のロビーで話しをしている。 ケニーバレルの『 ミッドナイトブルー 』が流れている。 もう少し、クリスマスに合うジャズだったら良いのにと真下は想う。 「 佐々木くんは、一緒じゃないんですか? 」と真下は言う…
「 う〜ん。言われてみればそうかもな 」と小久保は首を捻る。 「 灘丘さんは元気だろうか 」と小久保は独り言の様に呟く。 「 彼の記憶はこの図書館で引き取っています。灘丘さんは、その後、全くの別人になりました。顔も変わっていたんです 」 記憶を引き…
「 灘丘さんが直接、ここに来てベルトを寄付してくれたんです 」 「 灘丘さんは、俺の憧れだったんだ 」と小久保は言う。 佐々木は、小久保が灘丘と一緒の施設で育った事を知っている。 「 俺は、タクシーに乗る前は、プロレスをやっていた 」 佐々木は、勿…
「 女に決まってるだろ 」 「 次に好きなものは? 」 「 プロレスかな 」 「 じゃあ、プロレスの本のコーナーに行きましょう。地下にあります 」 2人は地下に行きプロレスの本のコーナーに行く。 まず目に飛び込んできたのが、プロレスのリング場。 その横に…
佐々木は、どんな風に説明すれば伝わるだろうと考えるが、どれもタクシー運転手の納得する様な答えが思いつかない。 死者からの伝えたい気持ちを届けることは出来るのに、肝心な自分のことは上手く伝えられない。 労働と言う考えがないから、お金はいらない…
「 こんばんは。今夜は冷えますね 」と佐々木は言う。 「 あのさ、ここはなんの店なんだろ? 」とタクシー運転手は言う。 「 図書館です 」と佐々木は言う。 「 図書館?俺には遊園地に観えるけど」 タクシー運転手は、佐々木のネームプレートを見て驚く。 …
「 君だけが特別じゃないんだ。みんな一人一人が、誰かにとって特別なんだ。だからその力の事で、もう悩んだりしなくていい 」と真下は言った。 あの言葉で、佐々木は全てを受け入れる事が出来た。 誰かが言ってくれるのを、ずっと待っていたかも知れない。 …
ある時、真下は佐々木に言った。 「 ねぇ、君はその力を特別だと感じる? 」 「 はい。今でも時々、怖くて眠れなくなります。前よりは、だいぶそんな日は減ったけど 」 「 実はね、君にはそれ以上に特別な力がある。力と言うよりは才能と呼ぶかもしれない 。…
佐々木の父親の友人が、うちの図書館でボクの助手をしないかい?と言った。 その図書館は、全ての本のコーナーで実際に体験できる仕組みになっている。 例えば、ジャズレーベル、ブルーノートの本の隣には、ブルーノートの最新作まで視聴、購入が出来る。 楽…
15歳の佐々木には、人の目に見えないものが見れる。 人には、聴こえない言葉が聴こえる。 死んでしまった人の伝えたかった言葉や、想いを届けることができる。 彼らは《 心眼師 》と呼ばれていて、殆どの人がその存在を知らない。 佐々木は、その力をなるべ…
佐川急便の男は、誰かと電話をしている。 騙されているとも知らずに可哀想。 騙し方は違うとしても、騙された男は、みんな同じ顔をするのね、と千春は想う。 やがて佐川急便の客は店から出ていく。 私は、彼の後を追う。 「 私の父親は、長尾隆史です 」と千…
「 これから君は、新しい名前と、新しい家と、新しい家族で暮らして行くんです。誰かを騙して金をもらう必要もない 」とその男は言った。 佐川急便の客がケーキ屋に入ってくる。 「 こんばんは 」と千春は言う。 「 あれ?佐川急便の人来ませんでしたか?こ…
ある時、変態プレイを好む男に出逢った。 いつも通り寝た後、金をもらう。 そのつもりだった。 男は裸のままの千春の両手に手錠をかけた。 両足を鉄パイプのベットにかけて、千春が身動きをとれないようにした。 「 ボクのペットにしてあげるね 」と男は言っ…
それから千春は、男を騙して金を奪った。 男はみんな単純で馬鹿だった。 股さえ広げれば、金は面白い様に入ってきた。 好きな時間に起きて、好きな服を着て、好きな食べ物を食べた。 世の中は、金が全てだと知った。 否定は誰にもさせなかった。 教師は、そ…
炎が徐々に部屋を焼き尽くし、煙で前が見えなくなり、息が出来なくなる。 まだ死にたくない、と千春は想った。 窓ガラスを椅子で割り、2階のベランダから千春は飛び降りた。 3階建てのアパートはみるみる炎に包まれていった。 丁度、今日みたいに静かに雪が…
3年前から千春は《 長尾家 》の娘として生きている。 偽造家族とは言え、長尾も母親も千春に優しく接してくれる。 まるで本当の家族の様だと千春は想う。 千春の本当の家族は、事業で失敗して焼身自殺をした。 「 一緒に死んでくれないか? 」と父親は言った…
なんで、私がケーキ屋なんかでバイトしなきゃいけないのよ、と長尾の娘、千春は想う。 「 今日だよ 」と僕は言う。 「 今日、佐川急便の男がケーキ屋にやってくる。君は何も知らないと言えばいい。そして帰り際に、私の父は長尾隆史です、と言って欲しい 」 …
「 ケーキ屋でトラブルにあったって俺に電話しただろ? 」 「 ケーキ屋?あぁ今朝話したケーキ屋か。あと一件配達したら行こうと思ってた所だよ 」と八田は言った。 おいおい、何なんだよコレはと常盤は思う。ショーケースに映った自分の顔が歪んでいくのが…
常盤はケーキ屋に入る。 「 こんばんは 」と感じの良い挨拶で、女性の店員が迎えてくれる。 「 あれ?佐川急便の人来ませんでしたか?このケーキ屋で何かトラブルがあったみたいですけど 」 「 いや、佐川急便の方は観ていませんが 」と女性店員は言った。 …
「 悪くないでしょ? 」とタクシーの運転手は言った。 「 そうですね。ジャズの事は詳しくないけど何か落ちつきます 」と常盤は言った。 「 それにこのタクシーは、真空管アンプを積んでるんですよ。特別な人の為に、特別に造られたタクシーです 」 タクシー…