素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

2015-06-01から1ヶ月間の記事一覧

小説 aim 15 ー白木

駅に着く度に、サラリーマンやOLや学生達が、吐き出されていく。 そして、新しいサラリーマンやOLや学生達が電車に吸い込まれていく。 彼らは、皆んな辛そうな顔をしている。 それでも、生きて行く為には働かないといけない。 白木にとっては、それ以上にや…

小説 aim 14 ー白木

この車両の中だけで、手話を理解できる人間が何人いるだろうか?と白木は考える。 電車に乗っている全員を対象にしても、1人いるかも怪しい。 通勤ラッシュの時間帯で覚悟はしていたが、女性の白木には、満員電車の窮屈さと、それぞれの体臭に息が詰まる。 …

小説 aim 13 ー小久保

小久保は、寝る前に、田野から貰ったサンドと、コンビニで買った第3のビールを呑みながら、ぼんやり考えていた。 俺にも、第3の人生があったらいいのな、と思う。 どちらとも、半分ずつ残して、布団を被り眠りについた。

小説 aim 12 ー小久保

「 風呂は無し、トイレも共同だった。俺はチャンピオンになった賞金で、父親を暮らしやすい部屋に引っ越しをさせた 」と灘丘は言った。 「 どうしてですか?灘丘さんは、父親のせいで、この施設に入ったんじゃないですか? 」と小久保は言った。 「 でも、俺…

小説 aim 11 ー小久保

ある日、施設にプロレスラーが遊びにやってきた。 プロレスラーは《 灘丘 》と言った。 灘丘は、元々、この施設で小久保と同じ様に暮らしていた。 今では、テレビに出て、チャンピオンベルトをはめていた。 小久保は、灘丘にプロレスラーになろうと思ったの…

小説 aim 10 ー小久保

父親は、酒の呑む量が多くなった。 アルコール中毒になり、子供の小久保に手を出す様になった。 小久保は、親戚に預けられたが、上手く暮らせなかった。 不倫で出て行った母親。 アルコール中毒の父親。 親戚は、この子供もロクな大人にならないだろうと思っ…

小説 aim 9 ー小久保

同僚の田野は、最近、息子を亡くした。 噂では、自殺と聞いた事があるが、本当の事は分からない。 田野は、小久保と同じ夜勤勤務だったが、息子の死後、早朝勤務に変更した。 やけに明るくなったので、理由を聞いて見たら、息子は、いつも側にいるからだよと…

小説 aim 8 ー小久保

早朝、夜勤明けの小久保は欠伸を噛み殺していた。 タクシーを事務所の車庫に戻して、1日の売り上げを入金する。 自販機の缶コーヒーを飲みながら、同僚達と1日の出来事を話し合う。 「 小久保さん、これ食べていいよ 」 と同僚の田野が言う。 ナポリタン、目…

小説 aim 7 ー長尾

偽造家族でスタートした、新しい人生。 彼らは、共通点があった。 互いに犯罪者である事、隠し通す事、そして生き延びる事。 3人は、この家族を生活をとても気に入っていた。 長尾は満員電車で女性と肩をぶつける。 長尾は、ごめんねと言う。 女性は、言葉…

小説 aim 6 ー長尾

「 そんな事が可能なのか? 」 と長尾は言った。 「 可能ですよ。但し、あなたには《 長尾家 》の父親として演じてもらいます 」 と僕は言った。 「 家族? 」と長尾は言った。 「 妻と娘とあなた。3人家族です。他の2人も、あなたと同様犯罪者です 」 そし…

小説 aim 5 ー長尾

犯罪者が誰かに追われる時、僕達の組織は動く。 まず始めに、彼らの身を守る。 隠れ家を用意し、食べ物と寝る場所を与える。 そして彼らに、新しい名前を付ける。 その名前は、死んでいった者、行方不明になった者の名前を付ける。 その者達は、やはり組織に…

小説 aim 4 ー長尾

3年前、長尾は、ある組織に雇われ殺し屋をしていた。 その時は《 櫻井 》と名乗っていた。 何度以来されて、何人殺したかは覚えていない。 殺したい人間と、殺された人間。 そちらのどちらも長尾は見てきた。 どれだけ手を洗っても、どれだけ耳を塞いでも、…

小説 aim 3 ー長尾

長尾は、僕に言う。 「 こんな風に3年も、一緒に住んでると本物の家族みたいに思えてくるなぁ 」 「 あなた達は、珍しい。普通は、一つの仕事が終わったらチェンジするんだけど 」 長尾は妻に「 行ってきます 」と言う。 長尾の妻は「 行ってらっしゃい 」…

小説 aim 2 ー長尾

僕は、彼女に言う。 「 前回、通った高校は、制服がダサいからイヤだと、急遽、転校したじゃないか。今回は気に入ってるみたいだし我慢しなよ 」 ふん、と彼女は言う。 6時45分に、長尾が起きる。 カーテンと窓を開け、空気を入れ換える。 トイレ掃除をし…

小説 aim 1 -長尾

長尾の妻は、毎日5時半に起きる。 隣で寝ている長尾を起こさない様に、目覚まし時計はかけない。 彼女は、僕に言う。 「 習慣って怖いわね。ぐでんぐでんに呑んでも、次の朝には、しっかり5時半に起きちゃうのよ 」 次に起きるのが、長女の千春。 千春は、…

小説 番人 20

「 前にも言いましたが、私は点描画を描いて生活をしています。嫌いな事や興味がない事はしなくても暮らしてこれました。その存在は、それとひきかえなんです。私は好きな事をする為に、その存在を認め共存しているんです。私が死ぬまで続きます 」と西嶋は…

小説 番人 19

「 西嶋さん、よく意味が分からないんですが 」 「 私は、この家でその気配を感じています。でも感じるだけです。見た事はありません。それは一人の時もあるし、何十人の時もあります。今の所、私を攻撃して傷付けたりする様な事はありません 」と西嶋は言っ…

小説 番人 18

「 今日は、僕以外にも誰か来ていますか? 」 「 いや、来ていません 」 「 家の中で物音がしたんです。ガラス越しに覗いてみたら、確かに人がいたんですが 」と僕は言った。 「 あぁ、あなたには見えたんですね 」と西嶋は何でもなさそうに言った。 〈 電話…

小説 番人 17

玄関前の手入れされている庭とは違い、裏庭は雑草が生い茂り、井戸が取り残された様に蓋をされていた。 玄関裏から物音がした。 僕は近づき耳をすます。 ミシミシ、ミシミシと畳を歩く音がする。 僕は西嶋の名を呼ぼうか迷ってしまう。 小窓からその存在を確…

小説 番人 16

小径沿いにある西嶋の家に着いたは午後4時を過ぎていた。 広い庭を抜け玄関のインターホンを鳴らした。 向日葵は相変わらず、太陽に向かって真っ直ぐ咲いていた。 蝉の鳴き声は僕の訪問と同時に止み、その静けさが僕を苛立ちさせた。 返答の沈黙を埋める為…

小説 番人 15

僕は西嶋に「 急で申し訳ないですが自宅に伺っても宜しいでしょうか? 」と電話をした。 西嶋は長い沈黙の後「 構いません。気をつけていらして下さい 」と僕に告げた。 西嶋の家に向かっている間、僕は様々な可能性について考えていた。 雨の降る気配は全く…

小説 番人 14

「 私も何度かあなたに警告をしてきましたが、借り物の身体では上手く伝わらなかったみたいです。ただ、これが最後の警告です。あなたは、もう、これ以上彼には会うべきではない 」と男は続けて言った。 「 失礼ですが誰かと勘違いされているんじゃないんで…

小説 番人 13

「 風景を楽しむ為に来たと言うよりは、アメンボを観察しにきたみたいだな 」今度は口に出して言ってみた。 歳のせいか、1人でいる時間が増えたせいか、心で想った事を独り言で呟く癖がついてしまった。 その事実に僕はまた笑った。 考え事をしていたから、…

小説 番人 12

彼らを観ているのは飽きなかった。 僕は、どんな会話をしているのか想像していた。 昼からの天気の話をして、縄張りの在り方について話をしているかもしれない。 あるいはお気に入りの雌達のうわさ話をしているかもしれない。 「 なぁ、どうしたらあの娘と寝…

小説 番人 11

スマートフォンのアラームで僕は目を覚ました。 休みの日もアラームを付けていた事に苦笑いをする。 歯を磨き、露天風呂に入り、昨晩と同じ個室の部屋で朝食をとった。 仲居もスタッフも昨晩の事を僕に口にしなかった。 僕は夢でもみていたのだろうか? 個室…

小説 番人 10

平日にキャンセルのお客さんが出たらしく連絡が入った。 僕は有給をとりレンタカーで『 みな和 』に向かった。 その日も、いつも通りお酒を呑み、食事を楽しんでいた。 温泉に入りゆっくり身体を休めるつもりだった。 天井スピーカーから流れている能の音声…

小説 番人 9

僕は休みの日になる度、熊本に出かける様になっていた。 信じてもらえないかもしれないが、熊本城を季節毎に訪れた。 春には春の熊本城があり、夏には夏の熊本城があり、秋には秋の熊本城があった。 やはり、冬には冬の熊本城があった。 歴史を越えて存在す…

小説 番人 8

それについて西嶋に相談をしたことがある。 「 あなたが出来ることは、相手の幸せを願うことだけです 」と西嶋は言った。 「 人は過去には戻ることはできません。生きることはできません。どれだけ未来に想いを馳せても未来に生きることもできません。人は今…

小説 番人 7

時々、別れた妻の事を想った。 今の僕を観ても前と同じことを言うだろか? 「 何故、あなたみたいな退屈な男と結婚したのかしら? 」と。 僕は彼女を愛していた。 彼女とは映画も音楽も好きな食べ物も合わなかった。 それでも、彼女の側で観る映画や聴く音楽…

小説 番人 6

西嶋の家にこうして毎月通っていると、ここ熊本に愛着の様なものを僕は感じる様になっていた。 山々はどれも美しく、湧き水は冷たくて美味しかった。 僕は電車だけではなく、福岡からレンタカーを借り、ドライブしながら街並みの季節毎に変わっていく風景を…