素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

2015-01-01から1年間の記事一覧

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』14

僕は便器にバジルパスタを吐き、イカスミパスタを吐き、そしてミートソースを吐いた。その間何度も水を流した。その内に何も吐くものがなくなって胃液だけが出てきた。しばらく壁にもたれかかった後、手で口を拭いトイレのドアを開けた。部屋の中は真っ暗に…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』13

カルボナーラを作ってる最中にインターホンが鳴った。僕は彼女に出てくれないかな?と頼んだけど、彼女はソファの上で脚を組み直すだけだった。インターホンは8回なった。そこにいる事は分かっているとでも言いそうな押し方だった。10回目がなった時、僕…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』12

次はカルボナーラを作ってみましょう!と僕は言った。小声で言ったつもりが彼女に聞こえたみたいで怪訝そうな顔をしていた。僕はそんな彼女の気持ちを遮る様に、U2のベストアルバムから『 スウィーテストシング 』をかけた。 My love, she throws me like a…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』11

今度はバジルパスタを作ることにした。 鶏のささみ肉に塩胡椒をかけ、蒸した後にそれを細かく裂いた。バジル、パルメザンチーズ、ニンニク、松の実の代わりにオリーブオイルで炒めたアーモンドをミキサーにかけてバジルソースを作った。塩ゆでしたパスタにバ…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』10

僕はグリーン・デイの『 ドゥーキー 』を選び『 バスケット・ケース 』をかけた。 Do you have the time to listen to me whine About nothing and everything all at once I am one of those melodramatic fools Neurotic to the bone No doubt about it お…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』9

彼女は知っているのだ。僕が彼女をもう愛していないことを。それで彼女は試しているんだろうか?僕が愛していた理由を思い出せるか。でもそれはあまりにも馬鹿馬鹿しいことだった。そんなことをパスタを作り続けて思い出すなんて有り得ない。僕は今、訳のわ…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』8

僕は彼女に缶ビールをすすめてみた。やはり彼女は手のひらをひらひらさせて首を横に振った。彼女は朝から何も食べていないし、何も飲んでいなかった。僕が彼女にしてあげれることは、たったの1つも残っていないかもしれない。じゃあなんで彼女は僕のそばに…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』7

「 傷ついたり傷つけたりしても、こんな面倒なことはもうウンザリだと嘆いても、私達はいつも誰かを愛するでしょ?それと同じなの。歯が黒くなってしまうと分かっていても私達はイカスミパスタを食べてしまうの。それ以外は見えなくなってしまうの。何も見え…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』6

なんで歯が黒くなってしまうことを知りながら、人はイカスミパスタなんて食べるんだろうと、作ったパスタを食べながら僕は思った。 「 なんで歯が黒くなってしまうことを知りながら、人はイカスミパスタなんて食べるんだろう?あなたはそう思ってる 」と彼女…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』5

「 食べないの? 」と僕は言った。 私はいいわ、と手をひらひらさせて、マイケル・ジャクソンのデンジャラスだったら、あなたはどんなパスタを作る?と彼女は言った。 「 イカスミパスタかな 」と僕は言って冷蔵庫を開けてみた。 「 なんで? 」 「 5曲目か…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』4

スガシカオ『 4FLUSHER 』に入っている『 ミートソース 』をBGMに選んでみた。ねっとりしたエレキギターのリズムとボーカルの声が絡みあってなんとも言えない。 頭がわれるくらい暑いから ミートソースを食った 間抜けな野郎しかいないから ミートソースを…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』3

彼女は部屋の中にあるレコードを1枚持って窓のドアをピシャリと開けた。僕の方を振り返り、このレコードは大事?と笑いながら尋ねてきた。ドアーズの『 ソフトパレード 』だった。ファーストに敵わないけど、僕にとっては素敵なレコードだった。そう伝える…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』2

手始めにミートソースを作ってみることにした。 玉ねぎと人参とセロリとニンニクをみじん切りにして、オリーブオイルをひきフライパンで炒める。ニンニクの匂いがあっという間に狭い部屋の中に広がる。ひき肉を炒めホールトマトを入れる。 「 ねぇ、BGMはな…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』1

「 私を愛しているなら、パスタを食べ続けなさいよ。そして踊り続けなさい 」と彼女は言った。冷蔵庫には順番待ちのパスタでドアが閉まらず、なお3つの鍋がもくもく湯気をたて僕の眼鏡を曇らせていた。 こんな事を言ってしまうと世の中の女性を敵にしてしま…

小説『 二十肩 』10

「 わたしも以前は二十肩でした 」と整体師は言い、頭のこめかみを右人差し指で、トン、トンと叩いた。ノグチさんもタケマルさんも同じです、と整体師は言った。 「 あんたと仲間ってことだよ 」とミシュランマン1号は言った。 これ以上はここにはいられな…

小説『 二十肩 』9

「 説明は終わりました。ノグチさん、タケマルさん、入ってきて下さい 」と整体師は言った。 ドアを開けて二人組が入ってきた。ミシュランマンがこんがり日焼けしたみたいな二人だった。どちらがノグチさんでタケマルさんなのか見分けがつかず、双子だと言わ…

小説『 二十肩 』8

「 あなたが傷つけてきた相手は、あなたの母親だけではありません。幼稚園の時、鉄棒の逆上がりができない大原忍くんを馬鹿にしたことがありますね。彼は今だにあなたに馬鹿にされた夢を見てます。小学校でも特別学級の佐藤弥生さんのロッカーにバッタの死骸…

小説『 二十肩 』7

「 確かに傷つけてきました。それが故意に傷つけてなくても 」と素直に認めた。 「 生まれた日、あなたは母親を傷つけているんですよ 」と整体師は言った。 整体師は一体何を言っているのだろう? 「 よく意味が分かりません。母親がなぜ傷ついてるんですか…

小説『 二十肩 』6

「 きっと不安だからだと思います。みんなと同じ考え方じゃないと、そこからはじかれてしまいそうで。同じ料理を食べて、同じ服を着て、同じ本を読んで、同じ映画を観る。そうすることで自分は世界と繋がっていると確認したいです。そう想うことは自然なこと…

小説『 二十肩 』5

「 世の中には、様々な考え方、生き方の人がいます。生まれた環境も物事の捉え方も違います。ジャズと同じです。同じ曲でも演奏者によって全く違う。その演奏を聴く人の精神状態や聴く時間によっても受け止め方が変わってきます。素敵だと思ったり、逆にジャ…

小説『 二十肩 』4

整体師の言ってることはよく判った。通勤で満員電車に揺られている人々は、誰かと戦っているように、何かに怯えるように下を向いている。しかし他人から見たら自分もそう見えるのだろう。 でも、と人々は思う。それは自分だけじゃない、ここにいる全員がそう…

小説『 二十肩 』3

「 身体の歪みは、心の歪みからきています 」と整体師は言った。 「 日々、穏やかな心でいれば身体を痛めることは勿論、歪めることもありません。来店される方の多くは、それは難しいと言われます。家族や職場や友人関係の中では、日々いろんなことが起こり…

小説『 二十肩 』2

「 007を”ゼロゼロセブン”と呼びます 」 「 えっ?違うんですか? 」 「 正しくは”ダブルオーセブンです 」 「 ゼロゼロセブンと呼ぶ人は二十肩になりやすいんですね? 」 整体師は当たり前と言わんばかりに深く頷いた。 整体師は必要以上に日焼けをして…

小説『 二十肩 』1

「 二十肩ですね、これは 」と何でもなさそうに整体師は言った。 「 二十肩?聞いたことないですね 」 「 コンビニでトイレだけ借りて、何も買わない人がなりやすいんですよ 」とやはり何でもなさそうに整体師は言った。 参ったな、と頭をかきながら思った。…

小説 aim 133 ー那須

「 ボクもそろそろ行くよ。ボクにだって待ってくれている人がいる 」とジェリーマリガンは言う。 「 ねぇ、君は佐藤なんだろう? 」と那須は言う。 ジェリーマリガンは、それには応えず「 小説を書くのは、どんな場所でも書けるよね?また君の新作が読みたい…

小説 aim 132 ー那須

「 私は妻に会えるんですか? 」と那須は言う。 ジェリーマリガンは頷く。 「 会いたい人がいるのは、とても素敵な事だよ。それを待ってくれている人がいる。此処まで来るのに、君を待ってくれていたんだよ 」とジェリーマリガンは言う。

小説 aim 131 ー那須

「 《 キミは多くの人を巻き込んでる。彼等は誰かの親であり、子どもであり、恋人なんだ。その人達の心も殺してる事になる。彼等の為に出来る事は、もう一つしかない。小説を書き続ける事だよ。一日も休んではいけない。毎日書くんだ 》とボクは言ったよね?…

小説 aim 130 ー那須

那須の肩に手をかける人がいる。 那須は、それが誰かが判る。 そこで彼は気付く。 《 私は死んだはずだ 》 ここは、何処なんだ? 「 小説を書き続けた君だから、分かった事があるだろ? 」とジェリーマリガンは言う。 彼はやはり、那須のイメージ通りだった…

小説 aim 129 ー那須

目を覚ましたら部屋の中は真っ暗だった。 今何時だろう? 酷く汗をかいてる。 台所でミネラルウォーターを飲む。 頭が痛くてそのまま冷蔵庫の前で座り込む。足にも痛みが残っている。 電気を点けて確認すると足に幾つも痣が残っている。 那須は、ジェリー・…

小説 aim 128 ー白木

家に帰ったら、母と買い物に出かけよう。 滅多に食べない甘いものを母と食べよう。 母が今まで観てきたものを、大切にしてきたものを、目を背けてきたものを、私は母と受け止めて行こう。 3人の顔がぼやけてみえる。 「 ようやく泣けた 」と白木は笑った。