素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

2015-07-01から1ヶ月間の記事一覧

小説 aim 41 ー長尾

「 彼女が騙した相手が少々マズイ人だったんです。だから、僕らが助けたんです。バイトを許可したのは、金を稼ぐ大変さを知ってもらいたかったからです。そしたら、あなたの事も今以上に尊敬するかも知れません 」と僕は言う。 これ以上、踏み込んで詮索する…

小説 aim 40 ー長尾

「 そして、奥さんがいて、お子さんもいる男ばかりでした 」と僕は言う。 「 あなたは、なぜ千春を助けたんですか? 」と長尾は言う。 「 彼女は、僕を騙そうとしていたんです。だから捕まえたんです 」 「 何処でですか? 」 「 本屋です 」 「 本屋? 」 …

小説 aim 39 ー長尾

長尾は、少し不安に思う。 1年前も同じ様に千春がバイトをしたい、と言った時に「 それは駄目だよ 」と彼は言っていたはずだ。 長尾は、僕にそれについて電話をしてくる。 「 彼女にも必要な経験だと感じたからです 」と僕は言 う。 「 彼女は、どんな犯罪を…

小説 aim 38 ー長尾

「 ただいま 」と長尾は言う。 「 おかえりなさい 」と長尾の妻は言う。 台所から美味しそうなシチューの匂いがする。 長尾はネクタイは緩め、ビールを飲む。 「 明日は、休みだし久しぶりに、家族で外食でもいかないか? 」と長尾は言う。 「 明日は、千春…

小説 aim 37 ー長尾

「 そうそう、封筒の中身はチョコレート工場に入れるチケットかもしれない 」 「 はぁ 」と部下は苦笑いをしている。 こんな事言われるぐらいなら、課長に相談しなければ良かった、と思ってるかも知れない。 帰り道、それぞれの家にクリスマスのイルミネーシ…

小説 aim 36 ー長尾

何か困った事があるのか、部下が白い封筒を持って机の前で呆然と立ち尽くしている。 「 どうしたの?それ 」と長尾は聞く。 「 昼休憩後に、机の上に置いてあったんです。名前が書いてないから、中身が怖くて開けれないんです 」と部下は答える。 見た感じど…

小説 aim 35 ー長尾

長尾は製薬会社の課長を務めている。 僕は、長尾に言う。 「 明日から、あなたは製薬会社の課長を演じてもらいます 」 長尾は、僕に言う。 「 俺が課長なんか務まりますかね? 」 「 務まるか、務まらないかの問題じゃないんです。あなたは、あなた達は、も…

小説 aim 34 ー常盤

ふと、おじいちゃんが言っていた言葉がよぎる。 「 困っている人がいたら、助けてあげるんだよ 」 JAFが来るまで、あと45分。 タクシーに乗れば、東海病院まで15分もかからない。 「 分かりました。お届けします。お客さんの名前と相手の名前を教えて下…

小説 aim 33 ー常盤

構わず男は続ける。 「 アルパチーノは、ゲイの恋人の手術費用の為に、銀行強盗するだよ。哀しい話だと思わないか?誰かを守る為に、誰かを傷つける。結局、警察に取り囲まれるんだ。ラストは想像できる? 」 「 捕まるか、射殺されるかかな 」と常盤は言っ…

小説 aim 32 ー常盤

男は寝巻きの様な格好で、松葉杖をついていた。 真冬だと言うのにサンダルを履いていた。 「 そんな事を言われても困ります。今、仕事中なんです。近くに事務所があるので、そこから発送の手続きをして下さい 」と常盤は言った。 「 それじゃ、間に合わない…

小説 aim 31 ー常盤

車に乗ると、やけに気持ちが悪い。 車が傾いている。 確認するとタイヤがパンクしていた。 急いでJAFに電話をして、状況と場所を知らせる。 師走で忙しいらしく、こちらに到着するまで1時間かかるらしい。 おいおい、運が悪いなと常盤は想った。 車の中で伝…

小説 aim 30 ー常盤

「 急で悪いんだけどさ、今日1日配達ルート交代してくれない? 」と八田は言った。 「 別に良いけど、何かあるの? 」 「 常盤のルートで、新しく出来たケーキ屋があるだろ?嫁がそこのケーキ食べたいって 」 苦笑いしながら、いいよと常盤は言った。 俺も…

小説 aim 29 ー常盤

「 また選挙始まるだろ?そしたら、またグチグチ言いだす奴がいるんだよ。やれ、私たちの生活は!やれ、消費税反対!政治が世界を動かしてるわけじゃないのによ。せっせと働いてる人達が、世界を動かしてるのにな 」と八田は言った。 「 まぁ、一番働いてい…

小説 aim 28 ー常盤

師走の朝、まだ月が空にある頃、常盤は車で出社する。 常盤は、佐川急便で働いている。 お歳暮の宅配が多く、毎日、夜遅くまで配っている。 事務所の喫煙所で、煙草を吸っていたら、目の前にジョージアの缶コーヒーが差し出される。 「 世界は、誰かの仕事で…

小説 aim 27 ー常盤

「 困っている人に出会ったら、助けてあげるんだよ 」 常盤のおじいちゃんの口癖だった。 常盤が子どもの頃、両親は共働きでどちらとも忙しく、おじいちゃんと一緒にいる時間が長かった。 読み書きも、計算も宿題も、おじいちゃんが教えてくれた。 お風呂に…

小説 aim 26 ー那須

書けない時もあったけど、まだこうして小説を書いてるよ、と心の中で那須は想う。 私がしてきた事は、誰にも許されないかも知れない。 妻の心でさえ殺してしまった。 それでも、と想う。 残された時間で私が出来る事をしよう。 「 そろそろ始めようか 」と那…

小説 aim 25 ー那須

「 人は、自分で選択して道を進んでると思ってる。その考えは間違いじゃない。幾つかの決断があり、妥協がある。ただ、結局の所、行き着く場所は誰もが同じなんだ 」と那須は言う。 「 だから、一本の橋なんだね? 」 「 進んでいる時は、気付かない。沢山の…

小説 aim 24 ー那須

「 橋は1人では造れない 」と那須は言う。 「 橋を造る前に、地形や地質、潮流を調べる。何人もの人が協力し合い施工に入る。完成するまでに、何十年もかかる橋もある 」 信晴は、温かいコーヒーを飲みながら頷く。 那須は、外を観て目を細める。 両手を組み…

小説 aim 23 ー那須

「 少し、休もうか? 」と信晴は言う。 那須は天井を少し見た後、頷く。 外から、通学中の小学生の賑やか声がする。 「 この小説のタイトルは決まったの? 」と信晴は言う。 「 《 橋 》にしようと想う 」と那須は言う。 信晴は指を鳴らす。 「 ソニー•ロリ…

小説 aim 22 ー那須

師走のよく冷え込んだ朝に、ベッドの中で那須は文章を作っている。 その言葉を拾い、息子の信晴が文字を起こす。 これが、那須の最後の小説になる事は、2人は口にはしないが分かっている。 那須の大腸癌が見つかった時には、既に骨や肺に転移していた。 抗…

小説 aim 21 ー白木

白木は、唖然とする。 父親が那須信也ではない? だとしたら、私と母親が憎んできた男は、誰だったと言うんだろう? 母親の心を殺し、家から追い出した男は、誰だったと言うんだろう? 今までの私の時間は何だったんだろうか。 「 あなたが何故、父親の記憶…

小説 aim 20 ー白木

白木は、忘却カードに【 父親の記憶 】と書く。 《 父親の本名を書いて下さい 》と真下は、白木に伝える。 白木は【 那須信也 】と書く。 真下は、いつも通りカードを機会に通す。 これで、父親の記憶は消える、と白木は思わず笑ってしまう。 数分待ってみた…

小説 aim 19 ー白木

受付まで足を運び、少し迷ったが手話で受付の男に《 この図書館で、記憶を引き取ってくれるって本当かしら? 》と白木は聞く。 《 本当ですよ 》と受付の男は、手話で答える。 受付の男のネームプレートに《 真下 》と書かれている。 《 この忘却カードに、…

小説 aim 18 ー白木

建物のドアを開けると、コーヒーの香りと、人々の楽しそうな会話が溢れてくる。 珈琲の本のコーナーでは、スタッフが一杯一杯、丁寧にドリップをしている。 その周りには、座り心地の良さそうなソファーが置いてあり、コーヒーカップも販売されている。 館内…

小説 aim 17 ー白木

「 時間はかかるけど、いいかな? 」とタクシー運転手は言う。 《 お願いします 》と白木はノートに書いて、タクシー運転手に見せる。 タクシー運転手の席の裏に《 小久保 》と名前が顔写真と一緒に貼ってある。 白木は安堵した為か、慣れない遠出の為かタク…

小説 aim 16 ー白木

白木は、幾つかの電車を乗り継ぎ、駅でタクシーをつかまえる。 ノートに書いた目的地を、タクシーの運転手に見せる。 「 その住所は聞いた事がない。他の車に乗ってくれないかな 」とタクシー運転手は言う。 そのやり取りは、9台分も繰り返される。 どのタ…