素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

小説 番人 5

「 点描画は外見を描くより、相手の内面を描く方が大切だと想います。相手が何に心が震えるかを、何を大切にして今まで生きていたかを。それをこちら側が受け止める事ができれば、その作品はとても素敵なものになります 」と西嶋は微笑んだ。 西嶋の家に通う…

小説 番人 4

「 きっかけは友人からもらった元アメリカ兵の点描画です。彼の絵は戦時中の記憶を切り取り描いていました。右腕がない兵士や銃を構えポーズを決めた兵士。中には吊るされた日本兵の首を描いたものもありました。彼自身もやはり左腕がありませんでした。私自…

小説 番人 3

僕は離婚したばかりだし、時間はたっぷりあった。 月に1度なら無理もなく通えて『 さつき食堂 』でうなぎを食べて、ここに来るのも悪くないな、と思った。 僕は、よろしくお願いします、と西嶋に言った。 それから僕は毎月、西嶋の家に通う様になった。 「 …

小説 番人 2

西嶋の身長は僕と同じ165センチくらいで、髪の毛は白髪混じりで所々がはねている。 色褪せた作務衣を着て眼鏡をかけている。 西嶋は友人の言葉に静かに頷く。 「 西嶋さんは、点描画でお前を描いてくれるんだ。絵好きには堪らなくないか? 」と友人は言っ…

小説 番人 1

友人から西嶋を紹介されたのは2年前のことだ。友人は「 絵が好きなお前は気にいるよ 」と言った。 熊本県の一勝地駅で降りタクシーに乗り『 さつき食堂 』で昼食のうなぎを食べている時だった。 「 ひょっとして、それがサプライズ? 」 「 優しい俺が、傷…

小説 ルーザー 13 ー座敷童

田野は、実が落ちてしまった歩道橋の上から車の流れを眺めていた。 赤や黒や白の車はどこに向かっているんだろうか。 結局、教師は待ち合わせの20時には現れなかった。 自分の息子が何故、死んでしまったのか分からずにいた。 少年が田野の方に駆け寄って…

小説 ルーザー 12 ー桃太郎とイヌとサルとキジ

時計は19時40分を指していた。 数学教師は、薄暗い教室にいる。 ぼんやり月の明かりだけが、教室に入り込んでいた。 誰もいない教室で、数学教師はうなだれていた。結局の所、私の思い通りには出来ないんだな。 私は、ここの生徒と同じだな。と数学教師…

小説 ルーザー 11 ー桃太郎とイヌとサルとキジ

まるで映画の『 仮面の男 』みたいだな、と田野は苦笑いをする。 ディカプリオみたいに男前じゃないし、味方は、たったの1人もいないが。 実が歩道橋から落ちて死亡した、と連絡がきた時、田野は何かの悪ふざけかと思った。 友人と協力して面白がっているの…

小説 ルーザー 10 ー浦島太郎

悪いのは、私じゃない。 悪いのは、あの生徒だ。 私の楽しみを取られたくない。 あれが出来なければ、私はまともに立つこそさえ出来ない。 数学教師は自宅の部屋で震えている。 よく考えろ。 何故、見つかってしまったんだ。 数学教師は、その日の事を何度も…

小説 ルーザー 9 ージキルとハイド

彼らの前に8255個の砂時計が並んでいる。 一つ一つ撫でながら口に入れていく。 今日もいつもの儀式が始まる。 「 それにしても酷い話だね、兄さん。自分の教え子を殺しちゃうなんて 」と弟のジキルは言う。 「 人間で1番怖いのは普通の顔をして、普通に暮ら…

小説 ルーザー 8 ー座敷童

少年は夕飯の材料を、母親に頼まれてスーパーに来ている。 人参、玉葱、じゃが芋、牛肉。 買い物カゴを持って、材料を入れていく。 今晩はカレーよと少年の母親は言った。 特に変わった具が入ってるわけでもないが、母親が作るカレーが少年は大好きだった。 …

小説 ルーザー 7 ー桃太郎

ただいまと、田野は言う。 おかえりと、息子の実は言う。 夜勤勤務が終わり帰宅する頃には、実が2人分の朝食を作っている。 大抵は『 なんでもサンド 』が朝食として、テーブルに並んでいる。 今日の『 なんでもサンド 』は、ナポリタンとレタスのサンドだっ…

小説 ルーザー 6 ー浦島太郎

数学教師はテーブルの上に地図を拡げている。 右手にウイスキーのオンザロックを持ち、左手にペンを持っている。 学校から帰宅すると数学教師は、この作業に入る。 1人で住むには広い部屋に住んでいる。 間取りは2LDK。その内、1番広い部屋をこの作業場に…

小説 ルーザー 5 ージキルとハイド

数え切れない程、砂時計が並んでいる。 そのどれもが、砂の残りがわずかなものばかりだ。 「 今日は何人だ? 」 と兄のハイドは言う。 「 13252人 」 と弟のジキルは言う。 「 今日も多いな 」 と兄のハイドは言う。 「 でも、ありがたい事だよ。人間の哀し…

小説 ルーザー 4 ー座敷童

「 坊主、オレの言葉が解るのか? 」 と黒猫は言った。 「 うん 」と少年は言った。 公園で、少年と黒猫は向き合いながら、話している。 遠くから見たら、1人の少年が猫と戯れている。普通はそう想う。 「 なんだか、オレの好きな小説家の物語に似ているな …

小説 ルーザー 3 ー桃太郎

早朝、田野は欠伸を噛み殺していた。 タクシーを事務所の車庫に戻して、1日の売り上げを入金する。 自販機の缶コーヒーを飲みながら、同僚達と1日の出来事を話し合う。 面白い話もあるが、他人事とは思えない話もある。 「 矢部さんが、運転中に後ろから殴ら…

小説 ルーザー 2 ー浦島太郎

チャイムが鳴り、生徒達は席に座る。 「 この前のテストの結果を配るね 」 と数学教師は言う。 「 いらな~い 」と生徒達はざわつく。 「 何を言ってるんだ、来年は高校受験だぞ 」 と数学教師は眼鏡のブリッジを触れながら言う。 でもさぁと、女子生徒は手…

小説 ルーザー 1 ージキルとハイド

駅のホームで、人身事故を知らせるアナウンスが流れる。 人々は心の中で舌打ちをする。 今週何度めだよ、自殺するなら他所でしてくれよと。 人々は、同情しない。 今日も生きる為に働いてるのだ。満員電車に揺られて。 面白くもない仕事をして。 「 兄さん、…

小説 あなたと夜と音楽と57

「 よく笑っていられるわね。あなたは死にかけたのよ 」と彼女は言った。 「 まぁ、こうして生きてるし、自分で選んできた事だしね 」と僕は言った。 僕が死んだら哀しんでくれる?と自信はないけど彼女に聞く。 彼女は空を見上げる。 何かを待ってるかの様…

小説 あなたと夜と音楽と 56

「 なら創ればいい。あなたは迷う事が出来る。心だって迷います。だから、あなたはまだ心が残ってる。いつか、思い出しますよ。だから書いて下さい。楽しみにしてます 」と僕は言った。我ながら良い事を言ったと思う。

小説 あなたと夜と音楽と 55

「 僕はいつか彼女を失うと思います。でも、思い出す事が出来る。真実ばかりが人を幸せにするとは思わない。でも真実は失くした事を失くさない為にあると想う。失くさなければ、また戻ってこれる。引き返す事は、決して、カッコ悪いことじゃない 」と僕は言…

小説 あなたと夜と音楽と 54

「 いずれにせよ、いつか、あなたは彼女を失ってしまう。私が妻を失ってしまった様に。必ず失う 」と私は言った。 「 僕は、あなたの書いた小説が好きです。ジャズミュージシャンが出てくるのも好きです。今でも、あなたが送ってくれた小説が家にあります。…

小説 あなたと夜と音楽と 52

玄関のチャイムが鳴る。ピザハットです!と宅配の男が言った。 ピザ?そんなもの私は頼んでない。 玄関のチェーンを付けたままドアを開ける。「 何かの間違いじゃないかな。ピザなんて頼んでないけど 」と私は言った。 可笑しいな、注文がこちらの住所に入っ…

小説 あなたと夜と音楽と 51

僕の声は震えていた。僕は泣いているんだろうか。僕が僕でなくなってしまう怖さに。憧れのジャズミュージシャンに会えた嬉しさに。 「 もう大丈夫だろ? 」とマイルス・デイヴィスは言った。

小説 あなたと夜と音楽と 50

「 オレは、オマエの世界じゃ、もう生きていないんだろ? 」僕は頷く。 「 教えてくれ、オレは、今と同じ様な古臭い事をやり続けていなかったか? 」とマイルス・デイヴィスは言う。 「 あなたは、いつも同じ場所には居ませんでした。人によっては理解されな…

小説 あなたと夜と音楽と 49

「 オレの演奏を聴けば、心を元に戻ると思ってるんだろ? 」とマイルス・デイヴィスは言う。 「 そう、ソニー・ロリンズから聴きました。僕自身も強くそう思います 」と僕は言う。 彼は目を閉じて何か考えてる。その間にも、僕の心は死にかけていた。砂時計…

小説 あなたと夜と音楽と 48

「 心が死にかけてるらしいな?それはどんな気分だ 」とマイルス・デイヴィスは言う。 暗い部屋に、スポットライトが薄い明かりを彼に照らしている。 「 とても寒くて、凍え死にそうなんです 」と僕は言う。 「 今までの想い出が失くなってしまってる。好き…

小説 あなたと夜と音楽と 47

「 あなたは神様なのですか? 」僕は尋ねる。 返事はない。暗闇がさっきより深くなる。だが不思議と気持ちは落ち着いている。 エレベーターのドアの向こう側から、小さなノックの音がする。 僕は手探りでドアに耳を当て、ノックの音に耳をすませる。 やがて…

小説 あなたと夜と音楽と 46

「 忘れたのなら、引き返せばいいよ 」と暗闇から声がする。 「 アンタが歩いてきた足跡があるだろ?そこを頼りに戻ればいい。引き返す事は、決して、かっこ悪い事じゃない 」 「 足跡が途中で消えてないか怖いんです 」僕は正直に言う。 「 ソニー・ロリン…

小説 あなたと夜と音楽と 45

男は見つけました、と暗闇に向かって話す。 幾分か彼の小説の内容が変わってきてます。 「 そりゃあ、そうだよ、アンタがこの世界に入って来た。少しずつ結末は変化していく。小説の結末を覚えてるかい? 」 僕は、結末を忘れてしまっていた。そもそも、僕は…