小説 あなたと夜と音楽と 29
「 この曲を聴いてるとね、自分が知らない内にずっと遠くまできてしまった感じになるんだよ。本当はろくに前に進んでないのに。でもそれを認めてしまえると楽になる。そう想える様になるのに時間はとてもかかったけど 」
「 その感覚は、分かりません 」正直に僕は言った。
ソニー・ロリンズは腕組みしながら考える。
「 過去を抱きしめるって言ったら分かるかい? 」
なんとなく分かりますと僕は答える。
人々は薄手のコートを着てマフラーを巻いていた。
街路樹の秋の葉が静かに揺れていた。