小説 あなたと夜と音楽と 16
ジェリー・マリガンの「 WHAT IS THERE TO SAY? 」のレコードに針を落とす。
キッチンのカウンターに座り目を閉じる。
ふいに涙が零れる。
私は誰の為に泣いているんだろう。
妻は出て行ったのではなかった。
ドアを開けたのは私自身だった。
妻は私を引き止めてくれていたのだろう。
足の痣を撫でながら想った。そして、妻の心でさえ私は殺してしまったのだろう。
「 気付くのが遅すぎたね 」と肩に手をかけられる。
後ろを振り向かなくても、それが誰か私は分かる。