「 あなたが、あのレコードを譲らなければ、私は失ったままでいられたんだ 」と男は叫ぶ。
空洞になった闇が僕の頭に覆い被さる。
誰かが僕の手を引く。
「 さっきのタクシーに乗ってエレベーターまで帰るんだ 」さっきまで、ピアノを弾いていたビル・エヴァンスは言った。
今、引き返す訳にはいかないんです。
僕は言う。
やっとここまで来れたんだ。
「 そんな状態じゃ、キミの方が駄目になる。まだ間に合うから大丈夫だよ。キミは大切な人を何があっても守らないといけない。大切な人を失った哀しみは知らない方がいい 」とビル•エヴァンスは言った。