素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説 あなたと夜と音楽と 37

「 あなたが、あのレコードを譲らなければ、私は失ったままでいられたんだ 」と男は叫ぶ。

空洞になった闇が僕の頭に覆い被さる。

誰かが僕の手を引く。

「 さっきのタクシーに乗ってエレベーターまで帰るんだ 」さっきまで、ピアノを弾いていたビル・エヴァンスは言った。

今、引き返す訳にはいかないんです。

僕は言う。

やっとここまで来れたんだ。

「 そんな状態じゃ、キミの方が駄目になる。まだ間に合うから大丈夫だよ。キミは大切な人を何があっても守らないといけない。大切な人を失った哀しみは知らない方がいい 」とビル•エヴァンスは言った。