小説 あなたと夜と音楽と 36
「 後ろは振り向かない方がいいですよ 」と男は言った。
「 私はいつでも、あなたの心を殺せる。よくこの場所が解りましたね。普通の人間は入り込めないはずですよね 」
僕は急に寒気を感じる。男がすぐ後ろにいるのだ。
後ろを振り向かない訳にはいかないと、僕は思った。
大丈夫、ジャズが僕を守ってくれる。ピアノトリオは世界で一番有名な曲を演奏している。
その為にここまで来たんだと言い聞かせる。
僕は後ろを振り向く。
男の顔は空洞になっていた。どんな喜びも哀しみ吸い込む闇に繋がっていた。