小説 素敵な図書館 2
今度、新しい事を始めるよ、と館長は言った。
また、仕事が増えるなと想うと同時に、楽しみでもあった。
「 人の記憶を貸し出せる 」コーナーを作ると館長は言った。
どうやら、ボクが専門でここに入る事になるらしい。
「 人には忘れたい記憶がある。それをこの図書館で引き取る。勿論、無料だよ。図書館を出る頃には『 忘れたい記憶 』が無くなっている 」と館長は言った。
「 そんな事、可能なんですか? 」
とボクは言った。
「 この図書館に出来ない事なんて、一つもない! 」と笑いながら館長は言った。
「 どうやって、人の記憶を引き取るんですか? 」とボクは言った。
これだよ、と館長は一枚のカードをボクにみせた。
『 忘却カード 』とそのカードには書かれていた。
「 カードの裏側に、忘れたい記憶を書く。それを受付のキミに渡す。いつも通りの作業をしてカードを相手に返す。それだけだよ 」と館長は言った。
それだけ?とボクは言った。
館長はニコニコ笑っているだけだった。
「 その引き取った記憶を、他者に貸し出すんですね 」とボクは言った。
やはり、館長はニコニコ笑っていた。
「 人が忘れたい記憶を、借りたい人なんているんでしょうか? 」とボクは言った。
「 やってみなくちゃ、分からない。と言うのが正直な意見。でも、必要としている人はいるだろうね。人は常に誰かと比較したい。『 あぁ、自分は幸せだなぁ、あの人と比べて 』意識してなくても、それを否定しても、無意識にそれをしてしまうんだよ 」と館長は言った。
そんな訳で、翌日から『 忘却カード 』をボクは配り始めた。
「 本当に? 」と多くの人が疑問を持って受け取っていた。
忘れたい記憶を消せる。
本当にそれが可能なんだろうか?
ただ、ここが素敵な図書館だと言う事を人々は知っていたので、それを試していた。