小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』7
「 傷ついたり傷つけたりしても、こんな面倒なことはもうウンザリだと嘆いても、私達はいつも誰かを愛するでしょ?それと同じなの。歯が黒くなってしまうと分かっていても私達はイカスミパスタを食べてしまうの。それ以外は見えなくなってしまうの。何も見えなくなって過去も未来もそこにはないの 」と彼女は言った。
僕はそれについて考えてみたけれど、どんな言葉も言葉にしてしまうと嘘に聞こえてしまうのが怖くて彼女には何も言えなかった。おそらく僕が彼女のことを愛してないからだ。どれだけパスタを作り続けても虚しくなるだけかもしれない。
僕は冷蔵庫から缶ビールを取り出し片手でフタをあけて一気に飲み干した。今自分がしていることは幼い子どもがムキになってする可愛い抵抗のようなものだと感じた。一体、僕は何に抵抗しているんだろう?彼女に?それとも彼女を愛していた理由を忘れてしまった僕に?