素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説『 モダン・アート 』6

目を覚ました時、自分がどこに居るか解らずパニックになった。見慣れない家具と窓のない部屋。理解するのに時間がかかった。そもそも那須は何故こんな事をしているんだろう。気味の悪いゲームの様に感じて嫌な汗が吹き出た。これは何かの実験で一部始終を誰…

小説『 モダン・アート 』5

僕は携帯電話に登録してある連絡先の電話番号をあ行から順番に観ていった。どの名前も遠い歴史人物の名前の様に思えた。それぞれの名前を観ても顔や声を思い出すことはできなかった。多分、彼らに一度は話したり触れ合ったり時にはぶつかり合ったりしたこと…

小説『 モダン・アート 』4

僕は湯呑みにお茶の粉を一杯分入れ、備え付けのお湯を注ぎ両手でゆっくりお茶を飲んだ。喉元を温かいお茶が通り過ぎる。「 本当はこんな時間を望んでいたんだ。美味しい寿司を食べて少しでも落ち着ける時間が欲しかったんだ 」と少し涙が出そうになった。 「…

小説『 モダン・アート 』3

「 お客さんは俺の外見を見てこう想っている。長髪で無精髭を生やしている店員が寿司なんて握れるわけがない 」と那須は言った。 当たり前の話だった。100人いたら100人同じ考えに辿り着くに決まっている。そしてそんな店員の寿司なんて食べたくない。…

小説『 モダン・アート 』2

案の定、店内には客は一人もいなかった。僕と武丸君はカウンターに座った。回転寿しのレールには一皿も乗っておらずコンベアも止まっていた。消毒液がきつい程匂い、天井スピーカーから静かにジャズが流れていた。スシローでジャズ?客で賑やかな店内しか知…

小説『 モダン・アート 』1

正直な話、僕が失業中でなければその友人の誘いは断っていた。高校の時に同じクラスメートで、卒業した後は彼と顔をあわせる事はなかった。僕は就職して、彼は大学生になった。彼から電話がかかってきた時、懐かしさより驚きの方が強く本当に彼の声だという…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』15

手探りで壁沿いのスイッチを探した。普段、壁を触っていないし気にもとめてないからわからないけど、思ったより変な粘り気を感じた。カビ臭い匂いも手の感触も暗闇のせいだろうと思った。ようやくスイッチを見つけ電気をつけた。部屋の中はソファを残して他…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』14

僕は便器にバジルパスタを吐き、イカスミパスタを吐き、そしてミートソースを吐いた。その間何度も水を流した。その内に何も吐くものがなくなって胃液だけが出てきた。しばらく壁にもたれかかった後、手で口を拭いトイレのドアを開けた。部屋の中は真っ暗に…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』13

カルボナーラを作ってる最中にインターホンが鳴った。僕は彼女に出てくれないかな?と頼んだけど、彼女はソファの上で脚を組み直すだけだった。インターホンは8回なった。そこにいる事は分かっているとでも言いそうな押し方だった。10回目がなった時、僕…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』12

次はカルボナーラを作ってみましょう!と僕は言った。小声で言ったつもりが彼女に聞こえたみたいで怪訝そうな顔をしていた。僕はそんな彼女の気持ちを遮る様に、U2のベストアルバムから『 スウィーテストシング 』をかけた。 My love, she throws me like a…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』11

今度はバジルパスタを作ることにした。 鶏のささみ肉に塩胡椒をかけ、蒸した後にそれを細かく裂いた。バジル、パルメザンチーズ、ニンニク、松の実の代わりにオリーブオイルで炒めたアーモンドをミキサーにかけてバジルソースを作った。塩ゆでしたパスタにバ…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』10

僕はグリーン・デイの『 ドゥーキー 』を選び『 バスケット・ケース 』をかけた。 Do you have the time to listen to me whine About nothing and everything all at once I am one of those melodramatic fools Neurotic to the bone No doubt about it お…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』9

彼女は知っているのだ。僕が彼女をもう愛していないことを。それで彼女は試しているんだろうか?僕が愛していた理由を思い出せるか。でもそれはあまりにも馬鹿馬鹿しいことだった。そんなことをパスタを作り続けて思い出すなんて有り得ない。僕は今、訳のわ…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』8

僕は彼女に缶ビールをすすめてみた。やはり彼女は手のひらをひらひらさせて首を横に振った。彼女は朝から何も食べていないし、何も飲んでいなかった。僕が彼女にしてあげれることは、たったの1つも残っていないかもしれない。じゃあなんで彼女は僕のそばに…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』7

「 傷ついたり傷つけたりしても、こんな面倒なことはもうウンザリだと嘆いても、私達はいつも誰かを愛するでしょ?それと同じなの。歯が黒くなってしまうと分かっていても私達はイカスミパスタを食べてしまうの。それ以外は見えなくなってしまうの。何も見え…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』6

なんで歯が黒くなってしまうことを知りながら、人はイカスミパスタなんて食べるんだろうと、作ったパスタを食べながら僕は思った。 「 なんで歯が黒くなってしまうことを知りながら、人はイカスミパスタなんて食べるんだろう?あなたはそう思ってる 」と彼女…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』5

「 食べないの? 」と僕は言った。 私はいいわ、と手をひらひらさせて、マイケル・ジャクソンのデンジャラスだったら、あなたはどんなパスタを作る?と彼女は言った。 「 イカスミパスタかな 」と僕は言って冷蔵庫を開けてみた。 「 なんで? 」 「 5曲目か…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』4

スガシカオ『 4FLUSHER 』に入っている『 ミートソース 』をBGMに選んでみた。ねっとりしたエレキギターのリズムとボーカルの声が絡みあってなんとも言えない。 頭がわれるくらい暑いから ミートソースを食った 間抜けな野郎しかいないから ミートソースを…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』3

彼女は部屋の中にあるレコードを1枚持って窓のドアをピシャリと開けた。僕の方を振り返り、このレコードは大事?と笑いながら尋ねてきた。ドアーズの『 ソフトパレード 』だった。ファーストに敵わないけど、僕にとっては素敵なレコードだった。そう伝える…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』2

手始めにミートソースを作ってみることにした。 玉ねぎと人参とセロリとニンニクをみじん切りにして、オリーブオイルをひきフライパンで炒める。ニンニクの匂いがあっという間に狭い部屋の中に広がる。ひき肉を炒めホールトマトを入れる。 「 ねぇ、BGMはな…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』1

「 私を愛しているなら、パスタを食べ続けなさいよ。そして踊り続けなさい 」と彼女は言った。冷蔵庫には順番待ちのパスタでドアが閉まらず、なお3つの鍋がもくもく湯気をたて僕の眼鏡を曇らせていた。 こんな事を言ってしまうと世の中の女性を敵にしてしま…

小説『 二十肩 』10

「 わたしも以前は二十肩でした 」と整体師は言い、頭のこめかみを右人差し指で、トン、トンと叩いた。ノグチさんもタケマルさんも同じです、と整体師は言った。 「 あんたと仲間ってことだよ 」とミシュランマン1号は言った。 これ以上はここにはいられな…

小説『 二十肩 』9

「 説明は終わりました。ノグチさん、タケマルさん、入ってきて下さい 」と整体師は言った。 ドアを開けて二人組が入ってきた。ミシュランマンがこんがり日焼けしたみたいな二人だった。どちらがノグチさんでタケマルさんなのか見分けがつかず、双子だと言わ…

小説『 二十肩 』8

「 あなたが傷つけてきた相手は、あなたの母親だけではありません。幼稚園の時、鉄棒の逆上がりができない大原忍くんを馬鹿にしたことがありますね。彼は今だにあなたに馬鹿にされた夢を見てます。小学校でも特別学級の佐藤弥生さんのロッカーにバッタの死骸…

小説『 二十肩 』7

「 確かに傷つけてきました。それが故意に傷つけてなくても 」と素直に認めた。 「 生まれた日、あなたは母親を傷つけているんですよ 」と整体師は言った。 整体師は一体何を言っているのだろう? 「 よく意味が分かりません。母親がなぜ傷ついてるんですか…

小説『 二十肩 』6

「 きっと不安だからだと思います。みんなと同じ考え方じゃないと、そこからはじかれてしまいそうで。同じ料理を食べて、同じ服を着て、同じ本を読んで、同じ映画を観る。そうすることで自分は世界と繋がっていると確認したいです。そう想うことは自然なこと…

小説『 二十肩 』5

「 世の中には、様々な考え方、生き方の人がいます。生まれた環境も物事の捉え方も違います。ジャズと同じです。同じ曲でも演奏者によって全く違う。その演奏を聴く人の精神状態や聴く時間によっても受け止め方が変わってきます。素敵だと思ったり、逆にジャ…

小説『 二十肩 』4

整体師の言ってることはよく判った。通勤で満員電車に揺られている人々は、誰かと戦っているように、何かに怯えるように下を向いている。しかし他人から見たら自分もそう見えるのだろう。 でも、と人々は思う。それは自分だけじゃない、ここにいる全員がそう…

小説『 二十肩 』3

「 身体の歪みは、心の歪みからきています 」と整体師は言った。 「 日々、穏やかな心でいれば身体を痛めることは勿論、歪めることもありません。来店される方の多くは、それは難しいと言われます。家族や職場や友人関係の中では、日々いろんなことが起こり…

小説『 二十肩 』2

「 007を”ゼロゼロセブン”と呼びます 」 「 えっ?違うんですか? 」 「 正しくは”ダブルオーセブンです 」 「 ゼロゼロセブンと呼ぶ人は二十肩になりやすいんですね? 」 整体師は当たり前と言わんばかりに深く頷いた。 整体師は必要以上に日焼けをして…