小説 その話はやめておこう 1
ボクの机の上に白い封筒が置いてある。
誰が置いたのだろう?
どこにでもある白い封筒。
封筒に触れてみる。
宛先は書いてない。
名前も書いてない。
『 領収書 』とも『 納品書 』とも書いてない。
首をかしげてる姿を大袈裟にしてみる。
「 どうしたの? 」
と同僚から声をかけてもらう為に。
でも、誰一人として声をかけてくれない。
今は師走なのだ。
首をかしげようが、首がもげてしまおうが、そんな事は気にならないのだろう。
仕方ないから女の子に聞いてみる。
「 あのさ、ボクの机の上に、この封筒置いたの誰か分かる? 」
白い封筒をヒラヒラさせながら聞いてみる。
「 知らない 」
と女の子は、手をヒラヒラさせながら答える。
「 そんな事より、来週の忘年会って絶対参加しないとダメですか? 」
と女の子は言う。
「 知らない 」
とボクは答える。
行きたくなきゃ、行かなければいい。
ボクだって行きたくない。
クライアント先からLINEで仕事の依頼がくる。
ちょっとまてよ。
この封筒は、そもそも、ボクのだろうか?
何かの間違いで、たまたまボクの机に置かれたんじゃないだろうか?
ボクは辺りを見回す。
そうすると、この封筒は誰のだろう。
「 どうしたの?それ 」
と課長が聞いてくる。
「 昼休憩後に、机の上に置いてあったんです。名前が書いてないから、中身が怖くて開けれないんです 」
とボクは答える。
「 チャーリーとチョコレート工場観た? 」
「 ジョニーデップの映画ですか? 」
「 そうそう、封筒の中身はチョコレート工場に入れるチケットかもしれない 」
課長は笑いながら言う。
まさか。
まさか、そんなわけないだろ。
相変わらずユーモアのない人だ。
ユーモアの意味も分からないんだろうな。
なんだか、どうでもよくなってボクはゴミ箱に、白い封筒を捨てる。
仕事が終わり、駅まで歩く。
すれ違う人々は、どこか楽しそうで、どこか寂しそうだ。
コートに手を入れながら歩く。
胸のポケットに違和感がある。
黒い封筒が入っていた。
嫌がらせだな。
間違いない。
駅のホームのゴミ箱に、その封筒を捨てる。
趣味が悪い。
誰がやったにせよ、どうでもよかった。
明日は休みだ。
お酒でも呑みながら映画でも観よう。
一晩寝てしまえば、そんな事はすっかり忘れている。