素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説 素敵な図書館 6

ボクの前に『 忘却カード 』が差し出される。

名前の欄に『 佐藤 圭祐 』と書かれている。

やあ、と館長は言った。

「 今回は、僕の記憶を引き取ってくれないかな 」

ボクはカードの裏を見て、館長の顔を見る。

『 図書館を造った記憶 』と書かれている。

「 これは本気ですか?何かの悪戯ですか? 」とボクは言った。

本気だよ、と館長は言った。

「 理由は二つある。まず一つ目。もう、僕は年だ。若い君達に、この図書館を譲りたい。君を見ていて思ったんだ。君達なら、もっともっと、この図書館を面白くできる 」

ボクは頷く。

「 二つ目。また一から新しい事をしたくなった。この図書館は、好きだよ。毎日、たくさんの人が来てくれる。スタッフだって楽しそうに働いている。とても運が良い。普通は、こんなに上手くいかない 」

だからと言って、記憶を消す必要があるだろうか?

ボクは正直に言った。

「 記憶を消す意味が分かりません 」

「 今のままだと、この図書館の様な事しか出来なくなる。つまりパターン化するのが嫌なんだ。大丈夫だよ。何も死ぬ訳じゃない。記憶が消えても、感性は消えない。僕なら、また上手くいく 」と館長は言った。

恐らく、このコーナーを造った時点で、館長は決めていたんだろう。止める必要はなかった。

分かりました、とボクは言った。

頼むね、と館長は言った。

「 館長のおかげで、仕事は楽しいものだと想える様になりました。スタッフもみんな、そう想っています 」とボクは言った。

「 それは、こっちのセリフだよ。君達自身が仕事を楽しいものに変えたんだよ 」と館長は言った。

「 最後に一つだけいいですか。何故、この図書館を造ったんですか? 」とボクは言った。

館長はいつも通り、ニコニコして答える。

「 僕は、人の笑った顔が好きなんだよ。笑った顔を想像していたら、この図書館になったんだ 」

その日も台風で図書館は空いていた。

ボクは、今度の講義に使う資料を集めていた。

お久しぶりです、と男の子は言った。

松葉杖をついていた男の子だった。

半年ぶりだね、元気だった?とボクは言った。

「 あの日、図書館から帰った後、家で母親と一緒に写ってる写真を観たんです。前に暮らしていた街で撮ったからか、僕も母親も笑顔で写ってました。それを観たら、堪らなく母親に会いたくなりました。思い出って厄介ですね。何をしていても、何処にいても、母親と楽しく暮らしていた思い出が鮮明に蘇ってくる 」と男の子は言った。

「 記憶は引き取らなくていいんだね? 」

「 良い思い出も、嫌な思い出も大切です 」と男の子は笑った。

ボクは図書館で働いている。

この図書館は、小さな小さな街にある。

電話帳にも、グーグルマップにも載っていない。

そんな図書館があるわけないじゃないか?

と、あなたは怒るかも知れない。

そんな事、言われても困る。

ボクは、確かにこの図書館で働いている。