素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説『 レトリック・サーカス 6 』ジキルとハイド

自分の子どもを自分の手で殺す。 残念ながらこの世界では、そんな親が死ぬ程、存在する。 現に今日だけで何人目だろう? だからと言って、岳本慎に憑依したジキルとハイドは、躊躇など一切しない。 岳本慎は、風呂場で長男の雅史の頭を湯船に押さえつけてい…

小説『 レトリック・サーカス 5 』小久保とミシュランマン

【 約束 】 《 当事者の間で決めること。また、その決めたこと。 「譲ることを-した」 「 -を破る」ある社会・組織などで、あらかじめ決められていること。きまり。ルール。 「演技上の-」生まれる前から定まっている運命。宿命。因縁。 「前世からの-」…

小説『 レトリック・サーカス 4 』僕とマンホールの女

『 面白いお客さんに出会えること 』 喫茶店を経営して1番の楽しみが、僕にとってこれが当てはまる。 面白いと言っても、基準がある。 ギャグや変顔は論外だ。 店の雰囲気に合わせることは勿論、今まで生きてきた中で、触れたことのない体験を一緒に共有で…

小説『 レトリック・サーカス 3 』拓也と紀香

ボブ・ディランが『 One Too Many Mornings 』で歌ってる。 “ 君の立場になれば 君が正しい 僕の立場になれば 僕が正しい ,, 確かにそうだよな、と僕は想う。 何が正義で、何が悪かなんて一人一人違う。その不安を取り除きたい為に僕らは多数決をとる。 49…

小説『 レトリック・サーカス 2 』平と南

【 習慣 】 《 長い間それを繰り返し行うことで、あたかもそうすることがきまりのようになったことである。基本的には、行動、身体的な振る舞いを指しているが、広くは、ものの考え方など精神的・心理的なそれも含みうる。 ある人の習慣は、後天的な行動様式…

小説『 レトリック・サーカス 1 』ジキルとハイド

『 死に方は自分で選べる 』 お前ら人間は勘違いをしている。 人間が選べるのは生き方だけだ。 死に方は俺たちが決めている。 それはずっと前からのことだ。 有難いと思え。 こんな面倒な役、誰がやりたがる? 寿命に善人も悪人も関係ない。 善人が長生きす…

小説『 スピッツァー 』

今になって振り返ってみれば「 あの時が人生の分岐点だった 」と思える場面が何度もあった。 進学した学校であり、付き合った男性や友人であり、就職先、結婚、そして離婚。 誰かが( 願わくば神様が )左へ進むか、右へ進むか、もしくは立ち止まり嵐が過ぎ…

小説『 寝言 』

妥協。それこそが夫婦円満の秘訣であり、家族が家族で在り続けられる最大の防御だと、私は想う。 洗濯干しのやり方、衣服類のたたみ方、クローゼットやタンスの収納の仕方、部屋掃除のペース、トイレットペーパーのストックの数、食器の趣味、玄関に置く靴の…

小説『 オアシス・アイス 』

「 たかがお金、たかが家だと想って下さい 」 毎日、私の事務所に数多くの人達が訪れる。彼らは、彼女らは企業に対し労働時間や給与、待遇などに不満を持つ人達だ。契約内容の違いに嘆き「 俺は奴隷の様に働かされている 」と怒鳴る。訴えるつもりは初めから…

小説『 きっと、僕の名を呼んでいる 』

真夏のアスファルトに腰を下ろす。バーベキューの鉄板の上で焼かれているんじゃないかと錯覚するくらい尻が熱い。額から流れる汗を土の匂いが染みついたタオルで拭う。長靴を脱いで水筒に入った麦茶をコップを使わず流し込む。遠くでウグイスの鳴き声がする…

小説『 地底人ペコ、空を飛ぶ 』

「 地底人ペコ、空を飛ぶって映画があったら観たいと思う? 」と僕は彼女に尋ねる。 「 200パーセント観ない 」と彼女は言う。 世界には、返ってくる答えが判っていても聞かないといけない質問がある。 それが、今、僕が彼女に聞いてる質問。 僕は聞く時…

小説『 ナチュラル・カット 』

床屋は無口に限る。 職業は何か?結婚しているのか?子どもは何人いるか?いるなら何歳か?男の子か女の子か?出身は何処か?休みの日は何をしているか?趣味は何か? 「 佐藤さんは趣味ってあります? 」と本気で知りたくないであろうに、会話のキャッチボ…

小説『 正直な掃除機 』

我が家は、ようやく正直な掃除機を買うことができた。 そんなこと恥ずかしくてずっと誰にも言えなかった。 ご近所の噂にならないか、長男が友達に馬鹿にされたりしないか、不安で不安でたまらなかった。 「 10年かかったわ 」と妻は言った。 「 うん 」と…

小説『 コロニー 』8

会社の近くの蕎麦屋に昼食をとりにいく。店内はサラリーマンやOLで混雑している。隣の席では珍しく中学生が座っている。前に座っているサラリーマンはどう見ても父親ではない。何か事情があるのかサラリーマンの方は険しい顔をしている。私は関わらない様に…

小説『 コロニー 』7

「 まぁ、当たり前の結果だな 」とハヤトは言う。「 誰も自分の過去なんて思い出したくないのかしら? 」とマユミは言う。う〜んと唸り「 今が幸せなのに思い出す必要なんてないと思ってるんだよ 」とコウタは言う。「 それは言えてる。俺たちは単純に忘れた…

小説『 コロニー 』6

『 安曇荘 』は高層ビルに挟まれる様に建っていた。二階建てのアパートは朽ち果ていて、外には洗濯機があり洗濯物が不幽霊の様に風でなびいていた。ポストは野晒しで設置しており、ペンキが剥げて錆びついていた。105号室の名前を確認したが書かれておら…

小説『 コロニー 』5

「 軽蔑したでしょ? 」と涙目でマユミは言う。コウタは首を横に振り「 ありがとう。正直に話をしてくれて。君だって思い出したくなかったことだろうし、それを僕に話してくれた勇気の方が凄い 」と言う。「 法律と神様を無視したのに? 」「 その時はそれで…

小説『 コロニー 』4

「 僕は優しくなんてないよ 」とコウタは言う。「 私には優しく感じるけど 」とマユミは笑いながら言う。「 優しくさせてるのは君なんだ。世の中には優しい人間なんていない。相手が優しい気持ちにさせてるんだ 」とコウタは言う。「 哲学者みたい 」とマユ…

小説『 コロニー 』3

妻とは友人の結婚式で出会った。彼女は派手すぎない紺色のワンピースを着てベージュのパンプスを履いていた。アクセサリーは何も身に付けていなかった。ふらっと立ち寄った場所が、結婚式だったの、と言うように気負いもなく、暑化粧をしている他の女性達よ…

小説『 コロニー 』2

「 地上の暮らしで覚えているのは、母親と参拝する神社の横にあった藤棚だけなんだ。それだけは鮮明に覚えている。藤棚の下で上を見上げると空の色と混ざり合う。どこか遠い国に迷いこんだ錯覚に襲われる。気づくと母親が俺の手を握っている。なぁ、春がこな…

小説『 コロニー 』1

「 ごめんね。私たちは希望の他には何も持ち合わせていないの 」と真由美は言った。人間は人間を救えない。痛みを分かち合ったり、欠点を補ったりすることはできたとしても、人間が人間を救うことなどできない。その事実を分かっていても、私は真由美の言葉…

小説『 強面ライセンス 』6

「 あなた、バンドやってるでしょ? 」と女。えぇ、やってますけど、と高田。「 左手の指をみればわかるわ、私ある有名バンドのマネージャーをしているの。このカードで会計してくれるならメジャーデビュー考えてもいいわ 」と女。「 どのバンドですか? 」…

小説『 強面ライセンス 』5

ボクは本部に警告サインを送る。< 女がレジで従業員を脅している。支払う金を持たず、見たこともないカードを見せて洗脳しようとしている。酒( ジャック・ダニエル )で従業員の頭をかち割ると発言。商品のストッキングで首を絞める可能性あり >すぐさまに…

小説『 強面ライセンス 』4

夜中の2時50分。ベージュのスプリングコートを着た、髪の長い女が店に入ってくる。ヒールの高い靴をコツコツと音を立て酒コーナーの前で止まる。ジャック・ダニエルを左手でとり、次はストッキング3足を右手にとるが女の表情が崩れ、深くため息をついた…

小説『 強面ライセンス 』3

彼らが店を出た後、男女のカップルが手を繋ぎ笑いながら店に入ってくる。 ボクは安心する。この男女のカップルはどう見ても『 強面の人間 』ではない。だがその考えは3分もしないうちに覆されてしまう。男は店内に置いてあるコンドームを両手で抱えて高田の…

小説『 強面ライセンス 』2

夜中の1時半。二人組の男が店内に入ってくる。全身黒ずくめでごつい身体をしている。背丈も顔も瓜二つ。兄弟だと言ってもおかしくない。タイヤメーカーのマスコットキャラクター、ミシュランマンによく似ている。黒のミシュランマン。勿論、彼らは『 強面の…

小説 『 強面ライセンス 』1

今更、ボクが言わなくても知ってると思うけど、世の中には二種類の人間がいる。『 強面の人間 』と『 強面じゃない人間 』だ。ボクは郊外にあるファミリーマートの店内の監視カメラ。この『 強面の人間 』と『 強面じゃない人間 』が店に訪れ買い物をして( …

小説『 モダン・アート 』9

携帯電話の着信で目を覚ました。時間を観たらいつも起きている時間を過ぎていて、もう10時になろうとしていた。アラームを気付かないうちに消していたんだろうか。風邪をひいたのか頭がひどく痛んだ。「 真下です、久しぶり 」と明るい声が電話ごしに聞こ…

小説『 モダン・アート 』8

僕は241回の嘘について考えた。彼らはあるいは彼女らは友人を身代わりにして、この場所に誘ったわけだ。僕は入り口を眺めて騙されてこの店に入ってきた人々の姿を想像した。人々はまず客の少なさに驚きカウンターに腰をおろしただろう。長髪のわけのわか…

小説『 モダン・アート 』7

「 焦らなくていいんですよ 」と昼食の用意をしながら那須は言った。初めは誰だって戸惑うし、そんなに簡単に上手くいかない、と笑った。僕は朝から4人に電話をしていた。初めの1人目は五年ぶりに電話をかけたが、その電話番号はもう使われていなかった。…