素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

2016-01-01から1年間の記事一覧

小説『 モダン・アート 』6

目を覚ました時、自分がどこに居るか解らずパニックになった。見慣れない家具と窓のない部屋。理解するのに時間がかかった。そもそも那須は何故こんな事をしているんだろう。気味の悪いゲームの様に感じて嫌な汗が吹き出た。これは何かの実験で一部始終を誰…

小説『 モダン・アート 』5

僕は携帯電話に登録してある連絡先の電話番号をあ行から順番に観ていった。どの名前も遠い歴史人物の名前の様に思えた。それぞれの名前を観ても顔や声を思い出すことはできなかった。多分、彼らに一度は話したり触れ合ったり時にはぶつかり合ったりしたこと…

小説『 モダン・アート 』4

僕は湯呑みにお茶の粉を一杯分入れ、備え付けのお湯を注ぎ両手でゆっくりお茶を飲んだ。喉元を温かいお茶が通り過ぎる。「 本当はこんな時間を望んでいたんだ。美味しい寿司を食べて少しでも落ち着ける時間が欲しかったんだ 」と少し涙が出そうになった。 「…

小説『 モダン・アート 』3

「 お客さんは俺の外見を見てこう想っている。長髪で無精髭を生やしている店員が寿司なんて握れるわけがない 」と那須は言った。 当たり前の話だった。100人いたら100人同じ考えに辿り着くに決まっている。そしてそんな店員の寿司なんて食べたくない。…

小説『 モダン・アート 』2

案の定、店内には客は一人もいなかった。僕と武丸君はカウンターに座った。回転寿しのレールには一皿も乗っておらずコンベアも止まっていた。消毒液がきつい程匂い、天井スピーカーから静かにジャズが流れていた。スシローでジャズ?客で賑やかな店内しか知…

小説『 モダン・アート 』1

正直な話、僕が失業中でなければその友人の誘いは断っていた。高校の時に同じクラスメートで、卒業した後は彼と顔をあわせる事はなかった。僕は就職して、彼は大学生になった。彼から電話がかかってきた時、懐かしさより驚きの方が強く本当に彼の声だという…

小説『 愛を知っているならパスタで踊れ 』15

手探りで壁沿いのスイッチを探した。普段、壁を触っていないし気にもとめてないからわからないけど、思ったより変な粘り気を感じた。カビ臭い匂いも手の感触も暗闇のせいだろうと思った。ようやくスイッチを見つけ電気をつけた。部屋の中はソファを残して他…