素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説『 コロニー 』2

「 地上の暮らしで覚えているのは、母親と参拝する神社の横にあった藤棚だけなんだ。それだけは鮮明に覚えている。藤棚の下で上を見上げると空の色と混ざり合う。どこか遠い国に迷いこんだ錯覚に襲われる。気づくと母親が俺の手を握っている。なぁ、春がこないって寂しいよな 」とハヤトは言う。

私はベッドの上で眠っている間、心の中に街を創った。それは地下にあり人々はコロニーと呼んでいた。コロニーでは134人が暮らしていた。後になって何故134人なのか考えてみたが、おそらく私が記憶の中に留めていれる人数が134人、あるいはその134人と何処かで触れ合ったことがあったんだろうと考えに落ち着いた。人工の太陽を創り、畑を用意し、動物と一緒に生活した。四季はなく作物は限られたが人々は生きていく上では困らなかった。車や電車などの移動手段は存在しなかった。2時間もあればコロニーにいる人々に全員に会うことができたし、仕事という観念がなく人々は働くことはなかった。最も大切にしたのは娯楽だった。映画、小説、音楽を私が記憶の中にあるもの全て、人々は観たり読んだり聴くことできた。人々がそれらに触れてる時、私は彼らに生かされているのだと強く思った。泣いたり、笑ったり、怒ったりする感情を私の中に失わずいられたのも、彼らのおかげなのだと。彼らが呼吸してるのと同時に、私も呼吸をしていた。こうして彼らと繋がり続けることで、私は私で在り続けることができた。

「 その神社の近くには何かあったんじゃない? 」とマユミは言う。「 どうして? 」とハヤトは言う。

「 ハヤトが参拝だけの目的にその神社に行くとは思えないの。ほら、何かのついでにお母さんと一緒に行ってたんじゃないかしら 」ハヤトは腕組みをして、う〜んと唸り、やがて「 駄目だ。全然思い出せないな。いつもの俺ならパッと出せるんだけどな。映画のスラムドッグミリオネアみたいにさ 」とハヤトは言う。

「 きっと価値はあるわよ。思い出すだけの 」とハヤトの背中をぽんっと叩き笑う。価値ねぇとハヤトは言う。「 なぁ、今から一緒に映画観ない? 」「 ごめん、この後用事があるの 」「 おいおい、俺と映画を観る以上に、その用事は価値があるのかよ 」と肩を落としながらハヤトは言う。

「 その使い方は間違っているわ。価値は比べる為に存在しないの。ただ知る為にあるの。それで優越感に浸るのはどうかと思うな 」とマユミは言う。「 それはどうも価値のある言葉、ありがとうございます 」とハヤトは言う。