素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説『 強面ライセンス 』2

夜中の1時半。

二人組の男が店内に入ってくる。全身黒ずくめでごつい身体をしている。背丈も顔も瓜二つ。兄弟だと言ってもおかしくない。タイヤメーカーのマスコットキャラクターミシュランマンによく似ている。黒のミシュランマン。

勿論、彼らは『 強面の人間 』だ。チンパンジーが観たって同意してくれるに違いない。ボクは迷わず本部に警告サインを送る。

ミシュランマン1号が缶ジュースコーナーの冷蔵庫の前に立ち止まる。扉を開いて持っていた買い物カゴに、缶コーヒーのジョージアを一つずつ確かめながら入れていく。まるで弾倉に弾を入れているみたいだ。

ミシュランマン2号は雑誌コーナーで斎藤一人の本を立ち読みしている。何故か彼はニヤニヤしている。書かれている内容に共感しているんだろうか?それとも下らないと笑っているんだろうか?

ミシュランマン1号はレジに向かう。高田は商品補充をしていた手を止めレジに回り込む。高田はミシュランマン1号を観ても、少しも表情を変えない。本部から警告サインが届いている筈なのに。

「 世界は誰かの仕事でできている 」とミシュランマン1号は高田に言う。高田は袋に缶コーヒーを入れる手を止める。

「 それ、ジョージアのCMですよね? 俺も好きですよ。あのCMは山田孝之が出てるから良いですよね。他の役者だったら、えっ?何言っちゃてるの?って思っちゃう。あの人は普通の人を演じるのが上手い 」と高田は言う。

ミシュランマン1号は「 彼に会ったことがある 」と言う。

羨ましいなぁ、と高田は言う。サインもらいました?

「 4パターン目から違う人間がCMに出ている 」と高田の質問を無視してミシュランマン1号は言う。

「 おかしいなぁ。あのCM山田孝之しか出ていませんよ 」と高田は言う。

「 そう観えるだけだ。実際は彼じゃない 」とミシュランマン1号は言う。

高田は意味が解らないまま会計金額を言う。ミシュランマン1号は1万円札を置き、釣りは要らないと店から出ようとする。

「 お客さん、困りますよ。こんなに余分に貰っても店長に怪しまれてしまう 」と高田は言う。

「 こんな夜中に働いているんだ。それぐらいポケットに入れたってバチは当たらない 」とミシュランマン1号は言う。

だってほら、あの監視カメラが観てるからと、指でボクを差しながら高田は言う。だから誤魔化せないんですよねぇ。

ミシュランマン1号は舌打ちをしてレジの横にある募金箱に無造作にお釣りを突っ込み、店から出て行く。それに気付いたミシュランマン2号もつられて出て行く。

何もなくて良かったな、とボクは思う。本当に高田を観ていると寿命が何年あっても足りない。