小説『 強面ライセンス 』2
夜中の1時半。
二人組の男が店内に入ってくる。全身黒ずくめでごつい身体をしている。背丈も顔も瓜二つ。兄弟だと言ってもおかしくない。タイヤメーカーのマスコットキャラクター、ミシュランマンによく似ている。黒のミシュランマン。
勿論、彼らは『 強面の人間 』だ。チンパンジーが観たって同意してくれるに違いない。ボクは迷わず本部に警告サインを送る。
ミシュランマン1号が缶ジュースコーナーの冷蔵庫の前に立ち止まる。扉を開いて持っていた買い物カゴに、缶コーヒーのジョージアを一つずつ確かめながら入れていく。まるで弾倉に弾を入れているみたいだ。
「 世界は誰かの仕事でできている 」とミシュランマン1号は高田に言う。高田は袋に缶コーヒーを入れる手を止める。
「 それ、ジョージアのCMですよね? 俺も好きですよ。あのCMは山田孝之が出てるから良いですよね。他の役者だったら、えっ?何言っちゃてるの?って思っちゃう。あの人は普通の人を演じるのが上手い 」と高田は言う。
ミシュランマン1号は「 彼に会ったことがある 」と言う。
羨ましいなぁ、と高田は言う。サインもらいました?
「 4パターン目から違う人間がCMに出ている 」と高田の質問を無視してミシュランマン1号は言う。
「 おかしいなぁ。あのCM山田孝之しか出ていませんよ 」と高田は言う。
「 そう観えるだけだ。実際は彼じゃない 」とミシュランマン1号は言う。
高田は意味が解らないまま会計金額を言う。ミシュランマン1号は1万円札を置き、釣りは要らないと店から出ようとする。
「 お客さん、困りますよ。こんなに余分に貰っても店長に怪しまれてしまう 」と高田は言う。
「 こんな夜中に働いているんだ。それぐらいポケットに入れたってバチは当たらない 」とミシュランマン1号は言う。
だってほら、あの監視カメラが観てるからと、指でボクを差しながら高田は言う。だから誤魔化せないんですよねぇ。
何もなくて良かったな、とボクは思う。本当に高田を観ていると寿命が何年あっても足りない。