小説 番人 11
スマートフォンのアラームで僕は目を覚ました。
休みの日もアラームを付けていた事に苦笑いをする。
歯を磨き、露天風呂に入り、昨晩と同じ個室の部屋で朝食をとった。
仲居もスタッフも昨晩の事を僕に口にしなかった。
僕は夢でもみていたのだろうか?
個室の外の能舞台を観てみる。朝はプロジェクターからは映像は流れない。
それを観て僕は安堵した。
疲れていた上に、酔いが回ったんだろうか。
よく考えてみたら、昨晩起きた事は夢以外あり得ないと僕は想った。
現に僕は自分の部屋で寝ていたのだから。
朝食を食べる頃には、不安は消えていた。
午後は天草まで足を運ぼうと想ったが、どうやら天気は雨らしい。
僕は水前寺公園に寄ってからそのまま帰宅する事にした。
水前寺公園に着くと「 夏祭り 」と書かれた旗が立ており、屋台や金魚すくいを観光客が楽しんでいた。
アメンボが池の水面を揺らし、波紋が静かに拡がっていた。
池の前にあるベンチに腰を下ろし、屋台で購入した出来立てのタコ焼きを食べる。
アメンボの波紋は、また違うアメンボの波紋と重なり弾けて新しい波紋を造っていた。
まるで会話をしている様だな、と僕は想った。
アメンボをよく観察していると後脚で波紋を起こしていた。