小説 番人 1
友人から西嶋を紹介されたのは2年前のことだ。友人は「 絵が好きなお前は気にいるよ 」と言った。
熊本県の一勝地駅で降りタクシーに乗り『 さつき食堂 』で昼食のうなぎを食べている時だった。
「 ひょっとして、それがサプライズ? 」
「 優しい俺が、傷ついたお前の心を癒す為のな 」と友人は微笑した。
確かに僕は2度目の離婚をして精神的にも参っていた。
前の妻は「 何故、あなたみたいな退屈な男と結婚したのかしら? 」と嘆いていた。
僕にだって言いたいことは山ほどあった。
ただ、それを言ったところで虚しくなるのは目に見えていた。
子どもを授からなくて良かったわ、と離婚届けを押しながら彼女は言った。
「 その人は点描画を書くんだ 」とうなぎを食べながら友人は言った。
「 個展でも開いてるの? 」
友人は首を横に降り「 個展も講座も開いてない。紹介でしか会うことが出来ないんだ 」と誇らしげに言った。
西嶋は球磨村の休暇村の近くに、ぽつんと一軒だけ取り残された様に住んでいた。
「 お久しぶりですね 」と西嶋は言った。
約束は守りましたよ、と友人は言った。
今、想えばその時の友人の声は震えていたのかもしれない。