素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説『 コロニー 』7

「 まぁ、当たり前の結果だな 」とハヤトは言う。「 誰も自分の過去なんて思い出したくないのかしら? 」とマユミは言う。う〜んと唸り「 今が幸せなのに思い出す必要なんてないと思ってるんだよ 」とコウタは言う。「 それは言えてる。俺たちは単純に忘れたい思い出だから、思い出せないんだ。ずっと忘れていたいんだな。思い出したら、きっと不幸になる。そうやって神様はそっと教えてくれてるんじゃないか? 」とハヤトは言う。マユミはコウタを見て「 私は思い出したわ 」と言う。「 思い出す前と思い出した後、どちらが幸せ? 」とハヤトは言う。「 ねぇ、そんな単純なものじゃないのよ。ようは自分が何を大切にしてきたか、何を大切にしていきたいかなの 」とマユミは言う。「 悪いけど小学校三年生にでも判るような説明をしてくれないかな。難しくて俺にはよく解らない 」とハヤトは言う。「 過去があるから今がある 」とコウタは言う。「 だろうね。ところがどっこい、俺たちの殆どは過去を知らずにいる 」とハヤトは言う。「 でも僕たちは過去に生きてるわけじゃないんだ。過ぎ去っても思い出せなくても、それが大切だってことは、ずっと知っているんだ。ハヤトが藤棚の下で母親に手を握られていたことも、それは大切だって知ってるよね。そういうことなんだよ 」とコウタは言う。「 やっぱり、哲学者みたい 」と感心しながらマユミは言う。「 いや、みたいじゃなくてこいつは哲学者だったんだよ。きっと 」とハヤトは呆れながら言う。