素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説『 コロニー 』4

「 僕は優しくなんてないよ 」とコウタは言う。「 私には優しく感じるけど 」とマユミは笑いながら言う。「 優しくさせてるのは君なんだ。世の中には優しい人間なんていない。相手が優しい気持ちにさせてるんだ 」とコウタは言う。「 哲学者みたい 」とマユミは感心しながら言う。コウタはコロニーで暮らす人々の相談役になっていた。日々の悩みを彼に打ち明けることで人々は涙を流し感謝し、あるいは笑い転げて何時間も彼と話しをした。彼は人々の話を注意深く聴いていた。「 聞く 」より「 聴く 」と言う言葉が相応しく、その話から想像し本人が触れた感情に思いを馳せ、彼自身の心に捉えることができた。説得するようなことはなく、納得するまで人々の話に耳を傾けた。彼の周りには常に人がいた。そして彼は知っていた。多くの悩みは既に答えが出ていて、それを誰かに肯定して欲しいだけなのだと。それで人々が楽しく暮らしていけるなら本望だと。

「 時々、想うけど監視されてる気がするの 」と小声でマユミは言う。「 映画のトゥルーマンショーみたいに? 」とマユミに習って小声でコウタも言う。「 産まれた瞬間から30年間を24時間、監視される気分ってどんな感じかしら 」とマユミは言う。「 今が平和に暮らせすぎてるから? 」とコウタは言う。「 そう、今日だってあなたに会う様に仕組まれたんじゃないかって。考えすぎ? 」コウタは吹き出し「 考えすぎだよ。それは 」と笑う。ところで、思い出した?とコウタは言う。マユミは少しだけ頷く。

マユミは地上で暮らしていた時、児童相談所で働いていた。そこでは虐待やいじめについて相談を受け、必要と感じた場合は家まで行き子どもを保護した。保護された子ども達は身体中に痣があった。虐待した親は言った。「 顔を殴ると面倒になるから 」と。虐待をする親のどれもが「 これは家の躾 」と怒鳴った。「 あんたに何がわかる?あんた結婚してんの?子どもがいないくせに解ったフリすんなよ 」マユミも幼い頃に虐待を受けたことがあった。初めは自分がパパとママの言うことを聞かないから、殴られていると思っていた。良い子でない自分が悪いのだと。ある時、学校の身体測定で服を脱いだ時に友達が私の身体を見て泣き出した。それに驚いた保健の先生がすぐに私に服を着せ病院に連れて行った。それ以降、マユミは両親に会っていない。虐待をする親達を許してはいけない。子ども達もそれが躾なのだと勘違いしてはいけない。自分の親に愛されるべきなのだ。抱き締め頭を撫で真っ直ぐ信じてあげるべきなのだ。自分の体験から選んだ仕事だった。

マユミが相談を受けていた子どもの1人にユリちゃんがいた。元々、近所の通報で知らされた相談だった。インターホンを鳴らすとチェーンを付けたままドアが開き、怪訝そうな男が肌着と下着のまま煙草を吸いながら「 なんですか? 」と言った。マユミは事情を説明したが「 あぁ、それはあいつが俺の言うこと聞かないからさ。躾だよ。早いうちに大人の厳しさを教えてあげてんの 」と男は言い子どもを指で指した。部屋は薄暗く子どもは下を向いて表情まで読み取れないが肩が震えていた。「 近所の方が警察にも連絡しているんですよ。事情だけ彼女に聞きたいので相談所に連れて行っていいですか? 」マユミはとっさに嘘をついた。虐待をしている親は嘘をついている。自分がトラブルに巻き込まれたとしても子ども達をこれ以上哀しませてはいけない。

「 その日は、相談所に連れて行けたんだね? 」とコウタは言う。マユミは首を横に振り「 私は自分の家に連れて行ったわ 」コウタは少し驚いたが「 それはユリちゃんだけじゃないね? 」とコウタは言う。「 もう相談所だけじゃ、子ども達を救いきれないの。私は二階建ての借家を借りて子ども達と暮らしていたの。私と同じように幼い頃、虐待を受けて大人になった人達にも協力してもらってたわ 」とマユミは言う。それは誘拐ーーコウタの言葉を無視して「 死んでしまう子どもがいるのよ。親の暴力で。法律だろうが神様だろうが関係ないわ 」とマユミは言う。「 見つからなかったの? 」とコウタは言う。「 見つかりようがないの 」とマユミは言う。「 なんでだろう? 」「 虐待していた親達を私が殺していたから 」とマユミは言う。