素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説『 コロニー 』3

妻とは友人の結婚式で出会った。彼女は派手すぎない紺色のワンピースを着てベージュのパンプスを履いていた。アクセサリーは何も身に付けていなかった。ふらっと立ち寄った場所が、結婚式だったの、と言うように気負いもなく、暑化粧をしている他の女性達より私は好感が持てた。それに本人はそんなこと全く気にしていないような感じだった。結婚した後、そのことについて聞いてみたら「 アクセサリーを選んでるうちに気付いたの。全部、今までの彼氏に買ってもらったものばかりだって。それを身に付けて結婚式に行くなんて、とっても寂しいと思わない? 」と妻は言った。「 いつそれに気付いたの? 」「 式の当日。だからアクセサリーは付けなかったの。でも、どうしてそんなどうでもいいこと覚えてるわけ? 」と妻は呆れながら言った。

その結婚式で事件が起きた。新婦が新郎に手紙を読んでる時だった。突然、ローリング・ストーンズの『 黒くぬれ! 』が流れた。式場の扉が開き、スポットライトを浴びた女性が、奇声を上げながら新婦に近付き、ウイスキーのボトルを振り回していた。新郎は新婦を庇うことができずその場で腰を抜かしていた。新婦は後頭部にボトルを叩きつけられて血を流していた。呆気にとられている中、新婦をボトルで叩きつけた女性はそのまま扉から逃げ去って行った。私たちは何かの余興なのだと思っていたが、新婦の倒れ込んだ姿を見てことの重要さに気付いたのは『 黒くぬれ! 』が終わってからしばらく経った後だった。その後、式場は悲鳴に包まれた。

警察の事情聴取を終わった後、私はネクタイを外して駅のホームに電車が来るまでぼんやり過ごしていた。上手く乗るまで2本の電車を見送っていた。電車のシートに座っていると彼女が
私の隣に座って「 貴重な経験をしましたね。結婚式は嫌と言う程参加してるけど、こんなのはじめて 」と彼女は言った。互いに警察に何を聴かれたか、その時はどんな対応をしたか、電車の中で話し合った。式場では会釈する程度だったが、当事者同士の秘密めいた体験が、私と彼女の会話を不謹慎と知りながら弾ませていった。それも手伝って私たちは居酒屋で呑みなおした後、そのまま彼女の家に行き彼女と寝た。その時、授かった生命が啓太だった。

彼女は保育士をしていた。「 子ども達は可愛いくて大好きだけど、どうしても親が好きになれないのよ 」と嘆いていた。「 モンスターペアレンツ? 」と私は返した。彼女は首を横に振り「 その言葉で片付けるには現場はもっと切実なの 」と彼女は言った。子どもを授かったことをきっかけに私は彼女と結婚することに決めた。両方の両親には、あまりいい返事はもらえなかったが結婚しない理由も見当たらなかった。彼女のつわりが丁度酷くなる時期に重なり、私の仕事も忙しくなり家に帰るのは、いつも日付けが変わってからだった。「 今日も接待? 」と彼女はトイレを出た後に口を拭いながら言った。側にいてほしい時に、いつもあなたはいてくれない、と涙目で私を睨んでいた。当時、私は妻にとって『 素敵な旦那 』と遥かかけ離れてる存在だった。