小説『 強面ライセンス 』6
「 あなた、バンドやってるでしょ? 」と女。
えぇ、やってますけど、と高田。
「 左手の指をみればわかるわ、私ある有名バンドのマネージャーをしているの。このカードで会計してくれるならメジャーデビュー考えてもいいわ 」と女。
「 どのバンドですか? 」と高田。
「 言えないわよ、そんなの。言ったら、あなた逆に私にお金払いたくなっちゃうわよ。とりあえず歌ってくれるかしら 」と女。
ここでギターをかき鳴らす風にして、アカペラで高田は歌う。
「 なんて曲? 」と女。
「 愛を知っているなら、パスタで踊れって曲です。聴いた通り、スリーコードのロックンロールです。どうですか? 」と高田。
「 どうもこうもないわ、私があなたのマネージャーだったら、このジャック・ダニエルであなたの頭をカチ割っているわ 」と女。
そう、ここまでは、しっかりボクは観ていた。
「 そんな言い方ないじゃないですか? 」と高田。
ボクも女に同情したくなるような曲だった。
「 あなたみたいな小便臭いガキが、愛だの、ロックだの語らないでくれる?いい?愛を知ってなんでパスタで踊らなきゃならないわけ? 」と女。
「 そこがロックなんですよ?解らないかなぁ 」と高田。
女は頷きながらスプリングコートを脱ぎ捨てた。中身はSMの女王の衣装を着ていた。長年監視をしているがSMの格好をした客を初めて観た。支払う金を持ってきてないので客と呼んでいいのか判らないが。
「 意味のある遠回りか、意志のある近道。あなたはどちらを選ぶ? 」とコートの中身を観て唖然としている高田に尋ねる女に、えっ?何ですか?と間抜けな声しか出せない。
「 意味のある遠回りか、意志のある近道よ 」と女。
「 それとどう関係があるんですか?今の状況 が 」と高田が言うと同時に、高田の顔のすぐ右横にジャック・ダニエルが投げつけられた。タバコのコーナーに当り派手にジャック・ダニエルの破片と中身が飛び散る。
「 意志のある近道です! 」とほぼ悲鳴に近い声で答える高田。
「 なんで? 」と女。
「 人生は短いから 」と高田。
ふん、と女は鼻を鳴らし笑う。「 人生が短いのにコンビニでバイトしているの?バンドでメジャーデビューしたいあなたが?だから小便臭いって私が行ってるのよ 」と女。
「 それはタイミングがあるんです。スタジオ代だって稼がなきゃいけないし 」と高田。
本当に、意志のある近道を選んでる人間は、好きなことしかやっていないのよ、と吐き捨てる様に女は言い、高田の服を上下脱がし下着まで剥ぎ取った。
ストッキングを袋から出し、高田の両手を後ろで縛り、悲鳴を上げ続ける高田の口にストッキングをねじ込みながら入れた。
高田は涙目で何か女に訴え続けている。女は再び酒コーナーに行きジャック・ダニエルとストッキングを3足持ち、高田の前に足を止めた。
「 私は今から人を殺しに行くの。この酒とストッキングが必要なの。会計は、さっきのカードでできるわよね? 」と女は言った。
高田は何度も頷く。これ以上、否定したら何をされるか分かったもんじゃないと思っているのだろう。
「 私も、意志ある近道を選ぶわ。だから、あいつを殺す必要があるの 」と女は言ってスプリングコートを着て店内から出て行った。
高田は警察に、俺を縛った女が今から人を殺しに行くと言っていました、と泣きながら話した。
「 この女が? 」と警察は高田にカードを見せながら尋ねた。
「 そうです。この女です。この意味不明なカードで会計しろって。断ったら、いきなり女王様みたいな格好で酒を投げつけたり、縛ったりしてきたんです 」と高田は言った。
「 本当にこの女なんだね? 」と警察は言った。
「 そうです 」と高田は言った。
「 この女は昼間のドラマに出てる女優だよ。このカードはドラマの小道具だよ。ほら、ここに『 サンプル 』って書いてあるだろう 」と警察は言った。
ボクが、女について知っているのは、ここまでだ。( なんせボクは郊外にある、一昔前の型のファミリーマートの監視カメラだから )幸運なことに全国監視カメラ会議でボクは吊るし上げられることはなかった。
高田は相変わらず、コンビニでバイトをしながらバンドを続けている。高田は変わったことが2つある。警告サインを受け入れる様になったこと。ストッキングの種類を増やしたこと。
あなたも『 強面の人間 』を見つけたら気をつけてほしい。