小説『 強面ライセンス 』3
彼らが店を出た後、男女のカップルが手を繋ぎ笑いながら店に入ってくる。
ボクは安心する。この男女のカップルはどう見ても『 強面の人間 』ではない。
だがその考えは3分もしないうちに覆されてしまう。
男は店内に置いてあるコンドームを両手で抱えて高田のいるレジまで持っていく。
「 9個しかありませんか? 」と男は言う。
「 彼ってスゴイのよ 」と女はウィンクする。
高田は驚くが、確認してきますね、とバックヤードに入っていく。
「 参ったね。これだけじゃ全然足りないな 」と男は言う。
「 水風船じゃダメなの? 」と女は言う。
「 子ども達がコンドームじゃないと楽しくないって怒るんだよ 」と男は言う。
「 でもどうやって膨らますの? 」と女は言う。
「 耳で膨らますんだよ。火星人は耳で呼吸しているんだ 」と男は言う。
女は、なるほど、と言い、店内を歩き目当ての物を見つけレジまで運ぶ。
「 耳掻き 」と女は言う。
「 コンビニに耳掻きが売ってるんだ 」と男は感心しながら、耳掻きを触る。
ありました、ありました、と高田も両手でコンドームを抱えレジの上に置く。13個ありました、と高田は言う。
「 全部下さい 」と男は言う。
「 この耳掻きも 」と女は言う。
「 22個も? 」と高田は興味深く聞く。
「 本当はもっと欲しいけど時間がないから 」と男は言う。
「 私たち、今から火星に行くの 」と女は笑いながら言う。
「 お客さん達、面白いなぁ。コンドームを22個買う人も見たことないけど、舞台の練習でもしているんですか?火星はどうやって行くんですか?やっぱりUFO? 」と高田は言う。
「 宇宙船は目立ちすぎてダメなんだ。最近の火星人は洗濯機を使う。スペースもとらないし、普段の生活に紛れて行動できる。地球人だって、まさか洗濯機で火星に行けるなんて思わない 」と男はお金を払いながら言う。
「 洗濯機で? 」と高田は言う。
「 電源を20秒間長押しするの 」と女は言う。
「 それだけですか? 」と高田は言う。
「 そう、それだけで火星に行けるわ。そのまま洗濯機の中に入るの。2分で着くの 」と女は言う。
男は両手を組んで、うんうん、と頷く。
あっ、今度は40個入荷してもらえるかな?二週間後にまた来るよ、と男は言い、二人で手を繋ぎ笑いながら店を出て言った。
ボクは高田を観る。二人の言った事を信じているのか表情だけでは読み取れない。高田は大きな欠伸をしながら両手を前に伸ばして、コンドームが並んでいた、ぽっかり空いた棚の前で、しばらく立っていた。