素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説『 モダン・アート 』7


「 焦らなくていいんですよ 」と昼食の用意をしながら那須は言った。初めは誰だって戸惑うし、そんなに簡単に上手くいかない、と笑った。僕は朝から4人に電話をしていた。初めの1人目は五年ぶりに電話をかけたが、その電話番号はもう使われていなかった。絶えず連絡していた仲なら変更した連絡先を教えてもらえたにちがいない。2人目は僕が連絡してきた事に酷く腹を立てていた。「 俺はお前にあの時されたことを一生忘れない 」と言われ理由を尋ねようとした時には電話は切れていた。どれだけ考えても僕が彼にどんなことをしたのか思い出せなかった。3人目はすぐ留守番に繋がった。僕は何と言えば言いか解らず慌てて電話を切った。4人目は僕のことが誰か解らず「 勧誘なら妻に相談しないといけないので 」と言われ電話を切られた。僕は電話を切られる度に自分自信の存在を否定され寿命をすり減らしているように感じた。

  昼食にも相変わらずシャリの上にガリがのった寿司が出された。オムライスです、と那須は言った。僕は何も言わずそれを受け取りお茶を飲みながら食べた。しばらく休憩したあと5人目に電話をした。どれだけ存在を否定されても寿命をすり減らしても、ここにずっといるわけにはいかない。何コールかしたあとに「 真下の携帯です 」と男がでた。「 真下さんに変わっていただけませんか? 」と僕は言った。「 今、真下は会議に出ています。急用でしたら折り返しお電話しますが 」と男は言った。「 そんな急用じゃないから 」と礼を言い僕は電話を切った。

「 もしも、誰も誘えなかった場合はどうなるんですか? 」と僕は那須に言った。

「 今のところ、そんな例はありません 」と那須は言った。

「 どれくらいの人がここに来たんですか? 」

「 241人 」と那須は言った。「 241人の嘘をこの店で観てきました。嘘は人間を傷つけるだけではななく救うこともできる。それを認めなければ出ることはできないんですよ 」と那須は言った。