素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説『 モダン・アート 』3

「 お客さんは俺の外見を見てこう想っている。長髪で無精髭を生やしている店員が寿司なんて握れるわけがない 」と那須は言った。

  当たり前の話だった。100人いたら100人同じ考えに辿り着くに決まっている。そしてそんな店員の寿司なんて食べたくない。

「 俺が世界で一番美味い寿司を握れると言ったら、お客さんは笑うでしょ? 」と那須は言った。

  僕は静かに頷いて自分の掌を観た。僕には時間が腐る程あったが、つまらない話にずっと耳を傾けていれる程、心に余裕はなかった。僕は昔から話のつまらない相手に会った時、掌を見つめてしまう癖があった。手相のことを考えている方がよっぽど楽しかった。右手と左手を交互に見て比べる。どちらの手相を見て判断すればいいのかいつも迷ってしまう。ある人は右手だと言うし、ある有名人の本では左手と書いてあった。マジックペンで付け足して運を上げることもできるらしいが、未だに効果は出ていない。

「 これを食べてみて下さい 」と那須は僕の目の前に寿司を一皿置いた。シャリの上にガリがのっていた。

「 僕の目の視力が落ちていなければ、シャリの上にガリがのっている様に見えますね 」と僕は皮肉たっぷりに言った。

「 見た目はね 」と那須は言った。でも味は、えんがわですよ、と人差し指を立てながら那須は笑った。

  僕は両手の掌の手相を隅々まで観た。「 近々とても不運な日がやってきます。間違っても友人に食事を誘われても断ること 」と教えてくれていないか探した。探せば探すほど自分の意思の弱さを呪った。叫びたくなるのを我慢して、目を閉じながら一口で食べた。