小説 aim 14 ー白木
この車両の中だけで、手話を理解できる人間が何人いるだろうか?と白木は考える。
電車に乗っている全員を対象にしても、1人いるかも怪しい。
通勤ラッシュの時間帯で覚悟はしていたが、女性の白木には、満員電車の窮屈さと、それぞれの体臭に息が詰まる。
電車の揺れで、隣のスーツを着たサラリーマンの右肘が、白木の左頭に当たる。
サラリーマンは「 ごめんね 」と言う。
すかさず白木は、申し訳ないフリをして手話で受け答えする。
《 触るな、この変態野郎 》
サラリーマンは、勿論、この手話の意味に気付かない。