小説 番人 20
「 前にも言いましたが、私は点描画を描いて生活をしています。嫌いな事や興味がない事はしなくても暮らしてこれました。その存在は、それとひきかえなんです。私は好きな事をする為に、その存在を認め共存しているんです。私が死ぬまで続きます 」と西嶋は言った。
その日を境に僕は西嶋の家に行かなくなった。
その判断が正しかったかどうかは判らない。
僕がその時出来たのは、これぐらいしかなかった。
そうする事でしか、自分自信を保っていられなかったからだ。
休みの日に熊本に行くのも止めた。
恐らく、もう行くことはないだろう。
月に一度、非通知で着信があった。
それが誰からかの電話かは僕は分かっていた。
その度に、能舞台のプロジェクターに映った能楽師を想った。
西嶋と共存している存在を想った。
僕は電話にでる訳にはいかなった。
僕には僕の人生があり、何かとひきかえに生きれる覚悟も想いもなかった。
とは言え、西嶋と過ごした月日は僕にとってかけがえないものになった。
離婚後、彼に出会ってなければ、塞ぎ込んだまま暮らしていたかもしれない。
西嶋は言った。
《 あなたが出来ることは、相手の幸せを願うことだけです 》と
よく手入れされた広い庭、太陽に向かって真っ直ぐ咲いていた向日葵、蝉の鳴き声、黄色のフォルクスワーゲン。
未完成の点描画、そして縁側。
どうか、それらが西嶋を支え、傷付けられず、優しく護られます様にと、僕は願った。