素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説 番人 20

「 前にも言いましたが、私は点描画を描いて生活をしています。嫌いな事や興味がない事はしなくても暮らしてこれました。その存在は、それとひきかえなんです。私は好きな事をする為に、その存在を認め共存しているんです。私が死ぬまで続きます 」と西嶋は言った。

その日を境に僕は西嶋の家に行かなくなった。

その判断が正しかったかどうかは判らない。

僕がその時出来たのは、これぐらいしかなかった。

そうする事でしか、自分自信を保っていられなかったからだ。

休みの日に熊本に行くのも止めた。

恐らく、もう行くことはないだろう。

月に一度、非通知で着信があった。

それが誰からかの電話かは僕は分かっていた。

その度に、能舞台のプロジェクターに映った能楽師を想った。

西嶋と共存している存在を想った。

僕は電話にでる訳にはいかなった。

僕には僕の人生があり、何かとひきかえに生きれる覚悟も想いもなかった。

とは言え、西嶋と過ごした月日は僕にとってかけがえないものになった。

離婚後、彼に出会ってなければ、塞ぎ込んだまま暮らしていたかもしれない。

西嶋は言った。

《 あなたが出来ることは、相手の幸せを願うことだけです 》と

よく手入れされた広い庭、太陽に向かって真っ直ぐ咲いていた向日葵、蝉の鳴き声、黄色のフォルクスワーゲン

未完成の点描画、そして縁側。

どうか、それらが西嶋を支え、傷付けられず、優しく護られます様にと、僕は願った。