小説 番人 13
「 風景を楽しむ為に来たと言うよりは、アメンボを観察しにきたみたいだな 」今度は口に出して言ってみた。
歳のせいか、1人でいる時間が増えたせいか、心で想った事を独り言で呟く癖がついてしまった。
その事実に僕はまた笑った。
考え事をしていたから、一緒のベンチに腰を下ろしている男に気づかなかった。
4人は座れるベンチにもかかわらず、男は僕のすぐ横に座っていた。
僕は急に居心地の悪さを感じていた。
男はこの距離に特に気にしていない様に見えた。
男はNHKの教育番組『 できるかな 』に出ていたノッポさんと同じ格好をしていて、大きな黒いボストンバッグを膝に抱えていた。
「 彼には、もうこれ以上近づかない方がいい 」と男は表情の欠けた声で言った。
まるで池の中で泳いでいるアメンボに話しかけているような声だった。