小説 番人 7
時々、別れた妻の事を想った。
今の僕を観ても前と同じことを言うだろか?
「 何故、あなたみたいな退屈な男と結婚したのかしら? 」と。
僕は彼女を愛していた。
彼女とは映画も音楽も好きな食べ物も合わなかった。
それでも、彼女の側で観る映画や聴く音楽はどれも輝かしいものに想えた。
彼女との食事の時間は楽しかった。
僕はもっと彼女に寄り添い合うべきだった。
その考えを彼女に伝えるべきだった。
僕らは離れるべきではないと、伝えるべきだった。
そこで僕は首を横に振りうな垂れる。
僕は彼女と別れた時、きちんと傷ついたのだろうか?
傷ついていない、と僕は想った。
血は僕の為だけに流れていた。
傷口も痛みもどれだけ見渡しても見当たらなかった。