小説 ルーザー 13 ー座敷童
田野は、実が落ちてしまった歩道橋の上から車の流れを眺めていた。
赤や黒や白の車はどこに向かっているんだろうか。
結局、教師は待ち合わせの20時には現れなかった。
自分の息子が何故、死んでしまったのか分からずにいた。
少年が田野の方に駆け寄ってくる。
「 おじちゃん、兄ちゃんは、すぐ側にいるんだよ 」と少年は言う。
えっ?と田野は聞き返す。
風が優しく田野の頬を撫でる。
「 兄ちゃんが、父ちゃん、ごめんねって。ありがとうって、それを伝えて欲しいって 」
と少年は言う。
田野は涙で景色が滲んでいく。
そうか、実はそばにいてくれてるんだな。
父ちゃんこそ、ありがとうな。
「 夕飯の材料、スーパーで買ってきてくれる? 」と少年の母親は言う
「 カレー以外の材料は買いに行きません 」
と少年は言う。
「 え?カレーこの前食べたばかりでしょ? 」
と母親は呆れる。
「 その理由は、母さんが一番知っているよ 」
と少年は言う。
あぁ、と少年の母親は言い、じゃあカレーの材料をお願いね、と言う。
いってきます、と少年は言う。
いってらっしゃい、と少年の母親は言った。