小説 ルーザー 10 ー浦島太郎
悪いのは、私じゃない。
悪いのは、あの生徒だ。
私の楽しみを取られたくない。
あれが出来なければ、私はまともに立つこそさえ出来ない。
数学教師は自宅の部屋で震えている。
よく考えろ。
何故、見つかってしまったんだ。
数学教師は、その日の事を何度も何度も繰り返し思い出す。
そして、一つの結論が出る。
私は、わざと誰かに見つかる様に黒猫を殺したんだ。誰かに見て欲しかったんだ。と数学教師は想う。
数学教師は、チャールズ・ミンガスの『 フォギー・ディ 』をかける。
歪められたメロディーと一緒に、数学教師は踊り出す。
悪いのは私じゃない。
悪いのはあの生徒なんだ。
あれが出来なければ、私はこうして踊る事さえ出来ない。
生徒の自殺の噂を、流すのは簡単だった。
数学教師は、数人の生徒と相談した。
「 実は、彼から前々から相談されていたんだ。噂になっている猫殺しは、自分がやっていて、辞めたくても辞められない 」と。
勿論、生徒達はそれを信じた。
この先生が、嘘を言う訳がない。
最近、田野君、調子が悪そうだったのは、そのせいだったのか。
結局、その悩みで自殺したと噂が広がった。