素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説 ルーザー 6 ー浦島太郎

数学教師はテーブルの上に地図を拡げている。

右手にウイスキーのオンザロックを持ち、左手にペンを持っている。

学校から帰宅すると数学教師は、この作業に入る。

1人で住むには広い部屋に住んでいる。

間取りは2LDK。その内、1番広い部屋をこの作業場にしている。

部屋では、チャールズ・ミンガスの『 フォギー・ディ 』が流れている。

数学教師は想う。

何故、ミンガスは、『 フォギー・ディ 』のメロディーをここまで歪めないといけないのか?と。

ただ不思議な事に、この『 フォギー・ディ 』は数学教師に安らぎを与えてくれる。

恐らく、彼自身もその理由に気づいていないんだろうな。と数学教師は考える。

私がこの作業をしている様に、特に理由などないのだろう。他人から見れば、それがいびつに映るだけだ。

数学教師は、この作業を念入りにする。

まず空き地を探し、前回、行った場所から離れた場所でそれを行なう。

以前、住んでた場所で生徒にそれを見つかった事がある。その生徒は、母親に相談し、数学教師を問い詰めた。

その母親は、私と寝てくれたら、この話は誰にも言わないわ。と言った。

数学教師は、それに応じた。

せっかく、面白いコトを見つけたのだ。誰にも止められたくない。

生徒の母親は、何度も数学教師に性行為を求めてきた。

数学教師はやむ得ず、その街を離れ、この街に移り住んできた。

数学教師は、もう二度とこの作業を誰にも見つからない様に気をつけた。

地図で空き地に印を付け、その空き地に足を運ぶ。黒猫が何匹いるか確認する。それは毎日の日課だった。

数学教師は黒猫達に、ミルクや餌を与える。

信頼してもらう為だ。黒猫達は、警戒などせず面白い様に近づいてくる。

数学教師は、慌てない。

その黒猫達の1匹だけ狙いを定める。

それは、毎週土曜日行われる。

その作業が終わった後、決まって同じ夢をみる。

数学教師はベッドで寝ている。

金縛りに会い、目を覚ます。

ベッドの側には、数えきれないほどの黒猫の首が並んでいる。

血が流れている。まるで、今さっき切り落としたみたいに。

1匹の黒猫が言う。

「 オレ達の血は、飲めるよな? 」

「 勿論だよ 」

と数学教師は言う。

ガラスのコップに、トマトジュースみたいに注がられている。

数学教師は、それを一気に飲み干す。

数学教師は、日曜日に清々しく目を覚ます。

これで、また一週間乗り切れる。

ネットでニュースを観る。

勿論、黒猫が死んだ事なんて載らない。

そんな事には、誰も興味がないのだ。

数学教師はコーヒーを飲み、読みかけの小説を手にとる。