素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説 ルーザー 2 ー浦島太郎

チャイムが鳴り、生徒達は席に座る。

「 この前のテストの結果を配るね 」

と数学教師は言う。

「 いらな~い 」と生徒達はざわつく。

「 何を言ってるんだ、来年は高校受験だぞ 」

と数学教師は眼鏡のブリッジを触れながら言う。

でもさぁと、女子生徒は手を挙げて言う。

「 数学なんて、計算機があれば充分だと思うんです。大人になって因数分解なんて、絶対使わないと思うし 」

「 キミ達は、勘違いをしているよ 」

と数学教師は言う。

「 大人になればなるほど、知識が増えると思ってるだろ?そうじゃないんだ。逆に知らないことが増えて行く。知識は検索したら、それなりに解るよ 」

「 知識より、知恵が大事なんだよ。それは自分で体験して、発見して、少しずつ身につけていくものなんだ。今はその練習をしている時期なんだよ 」と数学教師は言う。

数学教師は生徒達に慕われていた。

ただの熱血教師ではなく、彼らの悩みや不満を聞いて応える事が出来た。

そして何より彼はハンサムだった。

女子生徒は勿論、彼女らの母親にさえ人気があった。

チャイムが鳴り、授業が終わる。

数学教師は、教室のドアを開け廊下を歩く。

確かにそうだよな

と彼は笑う。

計算機さえあれば、数学なんて勉強する必要はない。ましてや因数分解なんて尚更だ。

でもな、お前らの方がこの世の中に、役に立たないんだよ。

数学教師は笑いを堪えるのに必死だった。

私はここにいるべき人間じゃない。

あの事件さえ無ければと、彼は思った。