小説 あなたと夜と音楽と 13
「 私が妻とこの店に? 」
「 そうだよ。アンタの奥さんの仕事場がこの店の近くにある。仕事帰りに二人で来ていた。アンタは、カレーとホットコーヒーを、奥さんはタコライスとビールを注文していた 」
頭が痛くなり耳鳴りがしてきた。私は何も思い出させずにいた。
「 いいかい。思い出すんだ。アンタの奥さんがジャズを教えてくれたんだよ、アンタに。それだけは思い出さなきゃいけない 」
「 ASK ME NOW 」が終わろうとしていた。
煙草の吸い殻が店内を埋め尽くしていた。
「 もうそろそろ行くよ 」と彼は言った。