素敵な図書館

毎週土曜、夜11時に僕、佐藤が自作小説をアップしていくブログです。コーヒー、あるいはお酒を飲みながら訪問していただけたら嬉しいです

小説 あなたと夜と音楽と 5

遅かれ早かれこうなっていただろう。一緒に食事をしたのいつだったか上手く思い出せない。

妻は私と会話をしていたのではなく壁に話しかけていた。その度に自分が透明になってしまった感覚に襲われた。

夜勤明け仕事から帰ってくると妻は出ていってしまった。

私は仕事着を脱ぎ、洗濯籠の中に放り投げ、部屋着に着替えて眠気覚しにホットコーヒーを飲んだ。

妻のクローゼットやタンスの中身は空っぽだった。洗面所の歯ブラシはやはり一つなっていた。

妻は何一つ残していかなかった。

窓を開けて部屋の空気を入れ替える。

一緒に住んでいた時、時々、香る妻の香水も今は部屋を漂っていない。