小説 あなたと夜と音楽と 4
男はその力を使う事によって、自分の心を殺していくことになる。
本人は気付かない。時間の感覚が可笑しくなる。思い出が消えてしまう。自分が今まで何をしてきて、どこから来たのか判らなくなる。
でもそれは仕方ない、男が人々にしてきたことだ。
まず男は妻との思い出を失くしてしまう。出会った日のこと。
一緒にジャズを聴いていたこと。妻の存在の意味さえ判らなくなる。
「 何故、私はこの女性と暮らしているのだろう? 」妻は男を病院に連れて行く。先生は言う。
「 ストレスでしょう。ゆっくり休んで下さい 」
勿論、男は治らない。「 私は人の心を殺せるんです 」と先生にさえ言う様になる。
男の妻はそんな状況でも、彼を見放さない。妻は仕事を辞める事になる。いくらかの貯金があるから当分の間は大丈夫だと思っていた。
この頃から男は小説を書き始める。
「 小説のタイトルは、まだ決まってませんがジャズの名曲にしようかと考えてます。あなたと夜と音楽とが良いかな 」
彼らは「 心 」を取り戻せるだろうか。