小説 その話はやめておこう 3
これは何を意味しているのだろう?
301号室の封筒かもしれない。
303号室の封筒かもしれない。
誰かが間違えて、ボクの部屋に入れたかもしれない。
いや、違うな。
ボクがこの封筒を捨てても、また違う色の封筒が届くだろう。
終わらせる必要がある。
毎日、毎日、封筒が届くのを想像すると、頭が痛くなる。
封筒の中身を開けて、何が入ってるか確認する。
簡単な事だ。
中身は、呪いの言葉が書かれてるかも。
開けた瞬間に爆発するかも。
誰かの指が入ってるかも。
君が産まれたあの日を
僕はずっと忘れない
君が産まれたあの日は
世界が輝いていた
僕が産まれたあの日に
戻れるなら伝えたい
産まれてきた喜びを
ありがとうって伝えたい
それは命と命を繋ぐリレーの様で
僕から君へと
君からあなたへと
「 ありがとう 」と「 ごめんね 」が
多ければ多いほど
君はもっと強くなれる
君はもっと優しくもなれる
君が産まれたあの日を
僕達は覚えている
君が生きている今も
世界は輝いている
相変わらず輝いている
世界は輝いている
ボクは、封筒の中身を読み終える。
誰が書いたにせよ、
誰に向けられた言葉にせよ、
これは、ボクに必要な言葉だった。
恐らく、この封筒は何度も、ボクの周りに置いてあったんだろう。
映画館の隣の座席に。
コンビニの本棚に。
ドライブスルーの注文表の上に。
この封筒は、場所と色を変えて、ボクのすぐ近くまできてたんだろう。
「 今度はオレの机に置いてあった 」
と課長は言う。
課長は、青い封筒を持っている。
宛先は書いてない。
名前も、勿論、書いてない。
ボクは、それをみて可笑しくて笑ってしまう。
「 課長、ひょっとしたら、中身はチョコレート工場に入れるチケットかもしれませんよ 」
とボクは真剣に言う。
「 おいおい、マジかよ。甘いもん苦手なんだよな 」と課長は言う。
多分、ボクにだって、誰かに与えられるものを持っているはずだ。
仕事が終わり、駅まで歩く。
ふと、週末途中まで観た映画を思い出す。
彼は死なないんだ。
警察に捕まって終わる。
冬の帰り道。すれ違う人々は、どこか楽しそうで、どこか寂しそうだ。
ボクも彼らと同じ様に、そう映っていて欲しいと願った。