小説 その話はやめておこう 2
ボクはソファに寝転びながら、ビールを飲んでる。
アルパチーノは、ゲイの恋人の手術費の為に銀行強盗をしている
哀しい話だ。
誰かを守る為に、誰かを傷つけていた。
ボクは気が楽だ。
守る人も、傷つけたい人もいない。
玄関のインターホンが鳴る。
時計を見る。
夜の11時32分。
勿論、出ない。
出るわけがない。
一体、何時だと思ってるんだ。
宅配だろうか。
引っ越しの挨拶だろうか。
目の前では、アルパチーノが叫んでいる。
インターホンは鳴り続けてる。
もう一度時計を見る。
11時42分。
もう、10分インターホンを鳴らしている。
10分インターホンを鳴らす人の気持ちは、どんなだろう?
普通に考えれば、出直す。
先月、別れた女の子だろうか。
元々、彼女の方から別れを切り出してきた。
「 あなたの事は好きよ。でも今はダメなの 」と彼女は言った。
「 あなたが運命の人なら、離れても、また何処かで巡り会えるはず 」とも彼女は言った。
彼女は、何とか占いや、何とか星占いを信じきっていた。
ボクは何も言えなかった。
いつも大事な時に言葉が出てこないのだ。
ああ、
そう、
じゃあ、仕方ないね、
そんな言葉を言ったと思う。
『 運命 』
ボクはこの時ほど、ウソぽっく、安い意味に聞こえた事はない。
テレビを消す。
アルパチーノだって死なずにすむ。
あれ、彼は死ぬんだったけ?
警察に捕まるんだったけ?
インターホンが鳴り止む。
玄関ポストに何かが入れられる。
ボクはドアを開ける。
誰もいない。
彼女は消えてしまったのだろうか。
玄関ポストに、緑の封筒が入っている。
宛先は書いてない。
名前も書いてない。
缶ビールを冷蔵庫から取り出す。
テーブルに座り、緑の封筒に触れる。
会社の机に、白の封筒。
コートの胸ポケットに、黒の封筒。
そして、玄関ポストに、緑の封筒。